東日本大震災、3.11は、日本のさまざまな分野に「再考」を促した。それは建築にも言えるようだ。昨年開催された、第13回目のヴェネチア・ビエンナーレ建築展の日本館の展示はその大きな指標となるに違いない。その凱旋展が東京のTOTOギャラリー・間で開催中だ。
■ 建築家のエゴを投影した大規模建築への自省
日本館の展示は、コミッショナー(統括)に建築家の伊東豊雄を迎え、同じく乾久美子、藤本壮介、平田晃久、さらに写真家の畠山直哉のチームで構成。本来個の表現を尊ぶ建築家たちがあえて協業で「みんなの家」というひとつの表現を作る方式を選んだ。
そこには、被災地支援の建築家チーム「帰心の会」での活動を通じ、伊東に芽生えたある思いがこめられている。それは、市井の人々の目線を忘れ、建築家のエゴを投影した大規模建築、都市計画を良しとしてきた風潮への自省である。
凱旋展の第一フロアは、2011年12月から翌年6月の間を通じて作られた建築模型でびっしり埋められている。最終型に至る建築思考のプロセスだけでなく、乾、藤本、平田の発想のリレーゲームの軌跡でもある。
平田の生木使用は住環境への自然の導入なら、丸太の柱の林立にアレンジした藤本の発想は景観の記憶の喚起だ。さらに水平方向へ出っぱりを設けて変化を与えた乾の補足は、先のふたりの発想に共通する自然のノイズ(夾雑物)や豊かさの翻案だろう。
当初は果てない試行錯誤にも見えるが、プランが土地の景観と記憶に寄り添う形へ誘われていったのは、菅原みき子さんをはじめとする住民との密接なコミュニケーションという協業があってこそでもあった。
■ 住民と対話し、岩手県陸前高田市に「みんなの家」を
これらの模型群をぐるりと取り囲む壁の写真は、「みんなの家」建設地である岩手県陸前高田市の震災後の風景。写真家・畠山の故郷でもある。荒涼とした風景に建築家たちの思いが絡み合って生長していく建築模型群は復興のメタファーであり、かつ芽吹きつつある希望の姿でもあるだろう。
会場に設置された完成模型は、入り組んだ段差が会話へ誘う距離の近さを生み、稠密な丸太の柱の林が温もりと存在感を与える。縄文時代の三内丸山遺跡を思わせる古色も見られる。
第二フロアは、プロジェクトの立ち上がりから建築の竣工までを記録した畠山の写真展示。建築模型の変遷から浮かび上がってくる建築家と住民の協業を、ここでは生き生きとした表情で補足する。
3.11後の苦難にあえてゼロからはじまる協業と対話を選んだ姿勢は、ある意味泥臭いと言えるかもしれない。コンセプト重視の近年の日本館展示とは真逆の方向性でもある。だが、金獅子賞受賞という評価の意味は重いものに感じられる。(文・写真=美術・文化社会批評 アライ=ヒロユキ)
◆ここに、建築は、可能か:
第13回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館帰国展
2013年1月18日(金)〜3月23日(土)
休館日:日曜・月曜・祝日 ※3月11日(月)は開館
TOTOギャラリー・間
〒107-0062 東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
Tel.03-3402-1010