「ストーリーテリング」とは、伝えたい思いやコンセプトを、それを想起させる印象的な体験談やエピソードなどの物語を引用したりすることによって、聞き手に強く印象付ける手法で、2000年頃から欧米で注目されてきている。
この「ストーリーテリング」が「サステナブル・ストーリーテリング」として、CSRを社内へ浸透させるための有効なツール、そして、消費者、コミュニティとのエンゲージメントのツールとして活用することが、最近英国で注目され、企業向けワークショップも開催されている。
■ 記憶に残りやすく、共感が深い
「ストーリーテリング」は、これまでビジネスの中で多く使用されてきた。特に、企業のリーダーが理念の浸透を図ったり、組織改革の求心力を高めたりする目的で活用し効果を上げている。
「ストーリー」は、抽象的な単語や情報の羅列ではないので、相手の記憶に残りやすく、得られる理解や共感が深いとされている。また、ハーバード・ビジネス・レビューなどの論文でもビジネスの有効な手法として紹介されている。
「ストーリーテリング」の組織内での有効活用例として、世界銀行の変革の例が有名だ。
90年代後半、元世界銀行のプログラム・ディレクターであったスティーブ・デニング氏が、世界銀行の中にナレッジマネジメントのシステムを構築しようと考えた。その際に、従来のプレゼンテーションのやり方では全く耳を傾けてもらえず、最後の手段として使用したのが「ザンビアのマラリアの治療法に関するストーリー」だった。
この「ザンビアのストーリー」に世銀内部は共感、この巨大組織を動かし、ナレッジマネジメントのシステムを構築するに至った。このように「ストーリーテリング」は、組織を動かす力を秘めている手法なのである。
■ ユニリーバ、マークス&スペンサーも活用
この「ストーリーテリング」をCSRやサステナビリティへ応用したものが、「サステナブル・ストーリーテリング」である。
従業員、消費者、コミュニティなどを含むステークホルダーのエンゲージメントに、この「サステナブル・ストーリーテリング」は有効とされ、活用例が出てきている。
その例として、ユニリーバの「サステナブル・リビング・プラン」がある。これは、企業が直面している成長とサステナビリティを両立することを目指したビジネスプランだ。ユニリーバは、2020年までの60の目標を打ち立てた。これは製品のライフサイクル全体を目標に含み、自社だけではなく、サプライヤーや物流業者、さらに消費者の環境負荷にも責任を負うものだ。
また、英国のスーパーマーケットであるマークス&スペンサーの「プランA」も同様に、世界で一番サステナブルな小売店となるべく180ものコミットメントを2015年までに達成することを表明している。
このように欧米企業は、サステナビリティに関するプロジェクトを彼らのストーリーとして展開し、共感を呼びながら社内外へのコミュニケーション、そしてエンゲージメントへと推し進めている。
■ 熱意伝える「サステナブル・ストーリーテラー」に
このようなCSRの先進企業とそうでない企業との違いは以下の点である。
CSRの先進企業では、企業トップ、取締役会、CSR部門、その他部門が「CSR」について、共通の概念を思い浮かべ、CSRを推進することによって企業に好循環をもたらし、利益を上げることができることを知っている。
一方、CSR活動が停滞しているか、進まない企業は、企業トップ、取締役会、CSR部門、その他部門が、考える「CSR」の概念が違っている。そのような企業のトップや取締役会は、CSRについての理解が不十分で、取り入れることに消極的である。そして、その他部門は、コストがかかる余計なものと考える人が大半を占めている。
あなたの企業はどちらに所属するだろうか?
残念ながら後者に属しているのだとしたら、企業のトップのコミットメントを得るために根気よく説得し、他部門にも理解を得る工夫が必要となる。どのようにして、社内のCSRに関するトップのコミットメントを得て、社内にどのように浸透させるかは、日本だけでなく、欧米の企業でも苦労している部分だ。
トップのコミットメントを得るためには、CSR・サステナビリティのプランが、会社にとって有益であるということを説得することが必要となる。この「サステナブル・ストーリーテリング」は、CSRに関する社内への説得、そして社内外へのエンゲージメントを進める一つの鍵となるのではないかと考えている。
また、「ストーリーテリング」の手法の中で重要な要素の一つとして、「自分が打ち立てた将来のストーリーを信じ、熱意と情熱を持って伝える」ということがある。ぜひ自分の熱意を伝えられる「サステナブル・ストーリーテラー」となって社内外の変革、エンゲージメントを進めてほしい。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)