「原発事故発生日、NHKはSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測システム)の存在を知りながら文部科学省の方針に沿って、自らデータを報道することを取りやめた」。4月1日付でNHKを退職する堀潤アナウンサーは、東日本大震災から2年目を前にした3月10日、ツイッターにこう投稿した。しかしNHKはこのツイートを「事実誤認」としている。
東電原発事故では放射性物質を含んだ雲(プルーム)が福島第一原発から主に北西方向に拡散し、双葉町や浪江町、飯館村などが高いレベルで放射能汚染にさらされた。双葉町の井戸川克隆前町長は2012年1月の国会事故調に参考人として出席した際、SPEEDIの拡散予測について「国は責任を持って知らせるべきで、大変残念だった」「(拡散予測があれば)避難の判断で違った方向に舵を切った。罪の深さは計り知れないほど大きい」と国の対応を批判した。
もしSPEEDIの拡散予測が事故直後から公表されていれば、被ばくを避けられた住民は多かったはずだ。冒頭の堀氏のツイートは「(NHKは)国民の生命、財産を守る公共放送の役割を果たさなかった。私たちの不作為を徹底的に反省し謝罪しなければならない」と続く。
これに対してNHKは13日、本誌取材にFAXで回答。「ツイートの内容に事実誤認があり、事故発生日にSPEEDIの予測データは把握していない。事故翌日の12日から原子力安全・保安院などに再三取材を行ったが、『地震の影響で正しいデータが出せない』という回答だった」と反論した。
ところで、GoHoo(ごふー、日本報道検証機構)は主要紙によるSPEEDIの初期報道を検証している。それによると、当時の文科省副大臣は震災から5日後の2011年3月16日の記者会見でSPEEDIの運用を認める発言を行ったが、各紙ともこれを報じなかった。同19日、「SPEEDIが運用されながらデータは非公表」と最初に報じたのは雑誌「アエラ」だった。