世界の企業のCR(日本語のCSRに相当)レポートを評価・表彰している英団体「コーポレート・レジスター・ドットコム」の担当者が、日本のCSRレポートについて、こう語ったそうだ。すなわち
① 環境についての記述が多すぎる
② 企業の都合の良いことしか書いていない
③ 第三者意見も都合の良い人が多い
ISO26000の七つの中核主題の一つである通り、「環境」はCSRがカバーすべき領域の一部に過ぎない。その中核主題のうち、日本企業は総じて「人権」や「コミュニティーへの参画」などが苦手なことも多い。ここは少しずつでも克服していきたい。
企業の都合の良いことしか書いていない、という指摘も当たっている。本来であれば、不祥事や法令違反などネガティブ情報も積極的に記載して、その対応策もしっかり書けば、企業に対する信任は高まる。
日本ではCSRレポートの作成にあたって、情報開示のガイドラインに合わせようとする企業が多い。それはそれで重要なことだが、内容があまりにも固すぎて、これは誰が読むのだろうかと思わせるものもある。
最近では、開示義務情報はウェブサイトにできるだけ収納し、冊子はできるだけ薄くする企業も多い。親しみやすいハンドブックを出す企業もある。
例えば、日産自動車は「ブルー シチズンシップ ストーリーズ」を本レポートとは別に発行。16ページのコンパクトな誌面の中でカルロス・ゴーンCEO以下が決意を連ねる。
大田油脂(愛知県岡崎市)のCSRレポートは8ページと、さらにコンパクトだ。可愛らしいデザインでいて「循環型サイクル事業」への取り組みなど、中身は充実している。
そもそも、CSRレポートは誰に読んでもらうべきものなのだろうか。ESG(環境・社会貢献・ガバナンス)情報であれば、証券会社のアナリストや機関投資家向けだろう。だが、ESG情報であれば、ウェブサイトに収納して検索・閲覧機能を高めたほうが得策だ。
冊子やパンフレットは、もう少しCSRレポートを「読ませる」ためには開かれた人に読んでもらうことを想定したい。社員とその家族、地域の方たちを主要の読者層にした冊子があっても良いだろう。
オルタナ本誌に連載「欧州CSR最前線」を執筆頂いている英国在住のCSRコンサルタント・下田屋毅氏によると、欧州では「サステナブル・ストーリーテリング」という手法が注目されているそうだ。
もともとCSRで取り上げる事象は背景が込み入っており、その説明も長く複雑になりがちだ。これを一つのストーリー仕立てにすることで、読む者を引き込み、強い印象を与える。世界銀行やユニリーバの好例があるという。
現状のCSRレポートは、すべての情報がコマ切れ、断片的で、脈絡があまりない。もちろん「より網羅的」に伝えようとする誠意は多としたいが、あまりにも事柄が多く、読後の印象に残りにくい。
CSRレポートは毎年、何か一つ、読み手の記憶に残れば良い。それが証拠に、「この企業のCSR活動は何か」と聞かれた場合に、すぐに思い出せる企業の数は少ない。ストーリー仕立てであれば、CSR活動を記憶に残せる企業になれるのではないか。