津波で流された土地にまた家を建てるという老人が、岩手県陸前高田市にいる。佐藤直志さん、77歳だ。この佐藤さんを震災後から撮影し続けたドキュメンタリー映画「先祖になる」が、東京・ポレポレ東中野で5月10日まで上映中だ。
監督の池谷薫さんは撮影の経緯をこう話す。
「陸前高田に入ったときでした。高台にあるお堂で花見が開かれていたのです。その呼びかけ人が直志さんでした。彼は集まった人を前に『今年も桜は同じように咲く』と静かに語りかけました。僕にはそれが復興への決意と覚悟をにじませた生活者の言葉に聞こえ、彼を撮ることに決めました」
農林業を営み、仲間から「親分」と慕われている佐藤さんの家は、3・11の大津波で壊され、消防団員の長男は波に飲まれた。生きがいを失った男は元の場所に家を建て直そうと決断した。
「自分はきこりだ。山に入って木を伐ればいい。友人から田んぼを借り、田植えもしよう。仮設住宅には何があっても行かない」
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