■ 在日米軍基地に核兵器、憲法第九条は偽善
やがて二人の話は、鉄腕アトムに及ぶ。
――村上は私たちの対談で、一例として、50年代の日本のポップカルチャーから原子力を肯定的に描いた漫画「鉄腕アトム」を挙げた。「鉄腕アトム」(アトミックボーイまたはアストロボーイ)とは逐語訳で「鉄の腕の核」のことで、スーパーヒーローの少年だ。原子力のおかげでスーパーパワーを持つ。このヒーローによって、原子力に対する肯定的なイメージが国民に浸透した。(Reportage Japanから引用)
手塚治虫氏の漫画、鉄腕アトムの連載が始まったのは、戦後7年経った1952年。一方、日本の原子力研究開発予算はその2年後に国会に提出され、55年に原子力基本法が成立した。手塚氏の意図がどうだったにせよ、結果的にアトムは原発推進に一役買うことになってしまった。
インタビューで村上氏は、米軍の日本への核兵器持ち込みというデリケートな問題にも触れた。
――日本の憲法はいまもって核兵器に反対し、その製造、所持、配置を放棄している。これは偽善だと村上は激しく非難する。アメリカ軍が日本の米軍基地に核兵器を持っていることは一般的に知られているのに、誰もが何も知らないかのように振る舞っているからだ。憲法第九条が、長い間「平和条項」と特別に呼ばれてきたことは誰もが知っているはずだ。(Reportage Japanから引用)
村上氏はこう言い切る。
「沖縄の米軍基地に核兵器があることをみんな知っているのに、知らない振りをしたため、中身の無い平和憲法になってしまった。憲法第九条が骨抜きというか、守られてこなかったことは、日本人なら誰でも知っていること」
相手が誰であろうと臆することなく物を言う村上氏の姿勢には、09年にエルサレム賞を受賞した際のスピーチを思い出す。周囲の反対を押し切りエルサレムに出向き、イスラエルのパレスチナ自治区ガザ侵攻をこう批判した。
「高く硬い壁と、それに逆らって割れる卵があったら、私は常に卵の側に立つ。たとえ壁が正しく、卵が悪くても関係ない。私は卵の側に立つ」