麻生太郎副総理による「ナチスの手口に学べ」発言が大きな波紋を投げ掛けている。本人は発言を撤回したが、謝罪や辞任は明確に否定した。安倍晋三首相も幕引きを狙う。しかし今回の麻生発言は、日本や世界の民主主義の威厳を大きく損なったのではないか。ジャーナリストの田原総一朗氏に聞いた。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂、オルタナS副編集長=池田真隆)
――今回の麻生太郎発言には、日本の民主主義の危機を感じます。「右傾化」という言葉自体は昔から言われており、30年ほど前には中曽根康弘さんが「不沈空母発言」で大騒ぎになったこともあります。しかし今回の「ナチスの手口を学べ」発言はちょっと度を過ぎているのではないでしょうか。
田原:まず、バックグラウンドから話したい。日本が右傾化という理由の一つは、戦争を知る世代がいなくなったからだ。戦争を明確に覚えている最後の世代がぼくらの世代。ぼくは昭和9年生まれで、敗戦の年に小学校5年生だった。
5年生の1学期までは軍事教育を受けていた。そこで、こう教えられた。「この戦争は聖戦である。アメリカ、イギリス、オランダなどの国に対してアジアを解放して独立するための戦いである。大東亜戦争なのだ。君らもこの戦争に参加し、そして、死ね。君らの寿命は20歳だと思え。天皇陛下のために死ぬのだ」。
ところが、夏休みが終わり、2学期になると教師の教えが変わった。「あの戦争は侵略戦争であった。悪い戦争であった。民主主義の国であるアメリカやイギリスに戦争を仕掛けてしまった」。
そして、1学期までは英雄だった東条英機らが戦犯として捕まった。突然、犯罪者になった。教師をはじめ、偉い人の意見が夏休みを機に180度変わった経験を、子どもの時に体感した。だから、偉い人の意見は一切信用できないと思うようになった。「国は国民を騙すもの」。今もこの考えに変わりはない。
この経験が、ぼくがジャーナリストになった一つの大きなきっかけだ。戦争を知っている世代は、とにかく戦争を嫌う。日本は平和な国でありたいと願う。ぼくも同じだ。