デザインには、人や社会を変える力がある。建築は巨大であるが故に大きな力でもって動かすが、日用品のデザインはむしろ身近な、ヒューマンスケールで働きかけ、人を誘う。戦後興隆したインダストリアルデザインの草分け、榮久庵憲司と彼がけん引してきた創造集団GKを紹介する展覧会が開催中だ。(文・写真=美術・文化社会批評 アライ=ヒロユキ)
GKの代表作に、現・キッコーマン社の〈しょうゆ卓上びん〉がある。1961年に誕生したこの商品はかたちを変えず、いまも受け継がれているロングセラーだ。それまでしょうゆは大瓶販売が主だったが、ハンディな小瓶化は移し替える手間を省いた。このサイズの小型化は、「家族」から「個人」の時代の到来をデザインで示した。残量が一目でわかる透明容器は、合理主義と透明性をあらわす。ここには、戦後日本の民主主義の理念が端的に表現されている。
GKは、1950年代前半、東京藝術大学工芸科の助教授だった小池岩太郎のもとに集まった榮久庵ら学生の活動から始まる。グループ・オブ・コイケ(Group of Koike)が語源だ。かれらの創作はドイツのバウハウスなど海外の動向に応えるものだったが、スローガンの「モノの民主化」「美の民主化」からわかるように、戦後日本をよりよい方向に立て直そうとする表現運動の側面も持っていた。
榮久庵は「言葉に依るのでなくものに依るのがよい」と語る。論理に弱い日本人は言葉に頼ると精神主義に陥るので、むしろものづくりに傾注することで「まっとう」な社会建設を試みたのが彼らの姿勢だ。