福島のリアルを、音で伝えるプロジェクトがある。福島サウンドスケープといい、当地のサウンドスケープ(音風景)がネットにアップされ、音でその実態を知ることができる。(文=美術・文化社会批評 アライ=ヒロユキ)
■ 音が証明する除染の実態
これを聞いてまず分かるのが、除染効果がまばらだという事実だ。2011年5月1日の福島市内新浜公園に子どもたちの声はないが、翌年復活している。
しかし家族連れで賑わった郊外の小鳥の森は、直後はおろか1年後も回復しない。生活の場でなく除染対象に含まれないためだ。2年後もわずかな訪問客があるのみだ。1年後の音風景の、遠くからの右翼街宣車の音は世相を窺わせる。ほかにも、人気の少なくなった野山の鳥や虫たちの音風景が収録されている。
除染の裏事情も知ることができる。線量がいまだ高い地域をよそ目に、福島市五老内町には作業音が響く。東北六魂祭の開催のためだ。経済効果が見込める場所が優先される現状がある。
本プロジェクトは、福島大学理工学群共生システム理工学類の准教授、永幡幸司さんが2011年5月1日より始動。きっかけは1995年の阪神・淡路大震災まで遡る。サウンドスケープ研究者として、彼は被災地の音風景の実態調査を担当。
そこで「音だからこそ(あるいは、音があるからこそ)リアルに伝わってくること」があると知った。特定方向のみ捉えるカメラ撮影と異なり、音収録は全方位の情報を含み、「その場の空気感まで記録」できるのでより的確に実態を伝えられる。
3.11後、サウンドスケープという形で「自分にとってなじみのある場所の記録を残しておく」のを思い立ったという。
「放射性物質で汚染された福島では、鳥たちはいつも通り新緑を謳歌し、沈黙したのは放射線を怖れた人々の方だった」(永幡幸司「なぜ、サウンドスケープ研究者の私が放射能汚染問題に対して発言を続けるのか」『原発災害とアカデミズム』合同出版)。
永幡さんは公害反対運動を牽引したレイチェル・カーソンの『沈黙の春』になぞらえ、福島の現状をこう指摘する。
彼は福島大学構内の実態も忌憚なく伝える。除染作業はモニタリングポスト(線量計)の周囲が重点的に行われ、安全の数値をいわば誘導していることを音情報で指摘する。大学教員として勇気ある行為と言える。