原発安全神話の下で東電原発事故に至った日本。しかし一方で、原発立地計画を断念させた自治体は全国で34カ所もある。この内、紀伊水道を挟み徳島と和歌山で原発計画を追い返した住民に取材したドキュメンタリー映画「シロウオ~原発立地を断念させた町~」(かさこ監督、2013年製作、104分)の上映が18日から始まった。(オルタナ編集委員=斉藤円華)
■30年以上も前に「事故は必ず起こる」
徳島県阿南市では1976年、四国電力が蒲生田岬に「蒲生田原発」の建設計画を発表。一方、紀伊水道を挟んだ対岸の和歌山県日高町では、1967年に日高原発計画が持ち上がっていた。
映画では、この2つの立地計画を撤回させた住民へのインタビューを重ねる。漁師は「原発ができたら、事故が起きなくても温排水で漁ができなくなる」。牧場主は「事故はいつどこで起きるかが分からないだけで、必ず起きる」。住民の一人は「福島の原発事故が起きて、私たちは原発計画に反対して本当に良かった」と述懐。仕事や地域、故郷、自然、そして家族を守りたい、という切実な思いが異口同音に聞こえてくる。
メガホンを取ったのはライター兼カメラマン、そしてブロガーとしても知られるかさこ氏。東電原発事故の取材で20キロ圏内に入った同氏は、原発に近づくに従い空間線量が跳ね上がるのに、五感では何も感じることができない「見えない放射能の怖さ」を骨身にしみて実感した。
「福島は原発事故で故郷を奪われた。これは他人事ではないのに、事故の記憶は今、急速に風化している」。そんな思いに駆られて今回、全くの未経験にもかかわらず映画制作に挑んだ。