「緑の防潮堤」を海岸保全施設として認める改正海岸法が6月4日、成立した。震災後、東北沿岸で一斉に計画されたコンクリート製の巨大防潮堤は景観や生態系を破壊するとして多くの異議が上がった。今回の法改正で「緑の防潮堤」が法的に認められた形だが、国交省の構想について専門家からは「コンクリートありきではないか」との批判が相次いだ。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)
新たな海岸法の条文には、堤防等と「一体的に設置された根固工又は樹林」とある。条文に「緑の防潮堤」という表現はないが、国土交通省が示した「改正案の概要」には「緑の防潮堤」と書き込まれ、イメージも図示されている。その図によると、コンクリート堤防の陸側斜面に土が盛られ、植樹されている。
横浜国立大学の宮脇昭名誉教授が提唱した「緑の防潮堤」は、その土地本来の生物多様性を残すと共に、防潮堤そのものに根を張る樹木によって強度を高めるもの。それに対して、国土交通省の図は、コンクリートの高い壁に覆われる閉塞感を緑で解消しただけのようにも見える。
改正法案をめぐり、5月8日に有志市民らが開催した「環境女子会」では、自民党環境部会の片山さつき会長も登壇して防潮堤問題を話し合った。
会場からは、国土交通省の図について、「コンクリートありきではないか」「段差もないこの角度のコンクリート斜面に土は貼り付かない」「下が砂浜では長持ちしないのでは」といった声が上がった。
一般財団法人 土木研究センターの宇多高明常務理事も、「潮風が吹くので、堤防の高さ以上に木が育つことは現実的にありえない。国が示す絵は大切。誤解の無いように描いてほしい」と発言した。
改正海岸法には、緑の防潮堤の他に、学識者などを加えた「協議会」の設置や、生物調査を含めた海岸保全について民間団体との協力をうたった条文も、新たに盛り込まれた。
同会に登壇した九州大学の清野聡子准教授は、「法律には詳細は書き込めないから理念が書かれる。それをより良く生かせるかどうかは市民力にかかっている」と語った。