米SECの「紛争鉱物」問題、一応の決着――今後も気を抜けない日本企業

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途上国の児童労働や内戦状態を誘発しかねない「紛争鉱物」問題で、米証券取引委員会(SEC)が、世界のメーカーに義務付けていた調達状況の情報開示を撤回し、「紛争鉱物かどうかの結論は出さなくてもいい」と折り合いをつけた。日本企業にも安堵が広がっているが、人権にまつわるサプライ・チェーンの情報開示問題については今後も多方面から圧力が掛かる可能性があり、気が抜けない状況が続きそうだ。(編集委員・高馬卓史)

この問題ではSECが2010年7月に成立した金融規制改革法、いわゆるドッド・フランク法に基づき、米国の証券取引所の上場企業と取引先に対して、紛争鉱物を使用しているかどうかを明らかにするように要請していた。その公表期限は今年5月末だった。しかし、その直前の4月14日(米国時間)、米ワシントン特別区の控訴裁判所が、SECによる「鉱物に関する情報開示の義務付け」について、米国憲法に違反するとの判決を出した。

今回の判決は、企業に対する情報開示の義務付けは、「表現の自由」を保障した「米国憲法修正第一条」に違反したという趣旨だ。日本人にとって理解しにくいロジックではあるが、表現の自由の枠組みを相当広げた司法判断であるといえそうだ。

原告は全米製造業者協会、米国商工会議所、ビジネス・ラウンドテーブル(日本の経団連に相当)など米国の産業界の大半を占める勢力で、その主張が司法によって認められた形だ。

紛争鉱物とは4種類の鉱物(タンタル鉱石、スズ鉱石、タングステン鉱石、金)と、米国務長官が児童労働を増やしたり、反体制武装勢力の資金源になりかねないと定めた鉱石を指す。地域的には、コンゴ民主共和国と周辺国(9カ国)で、特にコンゴ民主共和国では長年、内乱状態にあり、現政権を支持する米国は、反体制武装勢力の資金源を断つことを重要視している。

つまり、この「紛争鉱物」の規制自体が米国の政治的な判断が密接に絡み合っていた。ところが、米国の産業界から強い反対を受け、それを司法が認めたことで、SECの矛先は相当にぶってしまった格好だ。

ただ、SECも結論部分は記述しなくていいとは譲ったものの、あくまでトレサビリティ・レポートの提出は求めている。また、いつ、結論部分の記述を義務付けるよう、攻めに転じてくるかもしれない可能性もある。欧州のNGOも、人権問題についての情報開示をグローバル企業に迫っている。

SECの情報開示義務付けの網に掛かっていた多くの日本企業は今回、このレポートの提出はしたと見られる。日本企業は今後も、従来通り、サプライ・チェーン(原材料や部品の調達から販売までの全経路)のチェックを行い、人道的見地から好ましくない紛争鉱物は使用しないという態度を貫き、それを世界に発信することが必要だろう。

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高馬 卓史

1964年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。総合情報誌『選択』編集長を経て、独立。現在は、CSR、ソーシャルビジネス、コミュニティ・デザインなどをフォロー中。執筆記事一覧

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