インドのとある寺院では、10万食ものカレーを、毎日無償で提供している。人種や身分、宗教を問わない、このユニークな「無料食堂」の様子を記録したドキュメンタリー映画「聖者たちの食卓」(2011年、ベルギー作品、65分)が9月に公開される。(オルタナ編集委員=斉藤円華)
■シク教総本山「黄金寺院」で
「無料食堂」を運営しているのは、インド北西部の都市アムリトサルにあるシク教の総本山、ハリマンディル・サーヒブ(黄金寺院)。「全ての人は平等である」という教義を実践するため、500年近くも食事の無料提供を続けているというから驚きだ。
食堂は「ランガル」と呼ばれ、1度に5千人が食事できる。メニューは豆カレー、チャパティ(薄焼きのパン)、ヨーグルトサラダなど。1日2.3トンの小麦をはじめ、膨大な食材と燃料が消費されるが、これらはすべて寄付で賄われているという。
人々は寺院の入口で靴を預け、物乞いも、ブランド品を身につけた富裕層も、食堂の床に座って食べる。食材の仕込みや配膳、片付けなどは300人のボランティアがほとんど全てを手作業でこなしている。無料食堂を目当てに近所に住みつき、通い詰める内にボランティアに取り立てられる人もいるのだそうだ。
■監督「事実を淡々と撮った」
映像は効果音やナレーションを一切挟まず、調理と食事、片付けという一連の光景を淡々と記録する。
監督の一人で、料理人でもあるフィリップ・ウィチュス氏は25日から27日にかけ来日。「この食堂で起きている、皆が同じ場所に座って食べているという事実を、善悪といった価値判断を挟まずにそのまま伝えたいと思った」と話す。
シク教はインド全体では少数派だが、富裕層の信者が多いとされる。無料食堂は黄金寺院以外のシク教寺院でも実施。「教義の中に富を再分配する仕組みを持っている」とウィチュス氏はみるが、「映画を通じてシク教の教義を広めよう、という意図はない。無料食堂から学べる部分があれば、各自が応用すればいい」。私たちは無料食堂から何を学べるだろうか。
映画は9月27日から東京・渋谷のアップリンクで上映。その後、全国で公開される。