広大な国土に7万5千基ものダムを造ってきた米国。近年では水利や発電など、当初の経済効果を果たせないと判断されたダムを撤去するようになっている。ダム建設一辺倒から政策を転換するまでの軌跡を記録したドキュメンタリー映画「ダムネーション」(監督:ベン・ナイト、トラヴィス・ラメル 2014年米国作品、87分)がこのほど公開される。(オルタナ編集委員=斉藤円華)
ダムは灌漑、発電、洪水防止など、様々な役割を担う事を期待されて造られる。峡谷に聳(そび)え立つダムの威容は、米国、ひいては近代文明の発展の象徴でもあった。
ところが、建設されたダムの中には、上流からの砂が長年にわたり堆積し、貯水量が減るものが出てきた。自然エネルギーとしての役割も、近年は大規模な土木工事を要せず、より環境負荷が低い風力や太陽光などが伸長している。
作品は、流域で暮らす住民や、早くからダムの建設に異議を唱えてきた人々らに取材。ダム計画について「効果が見込めない」とする報告書をまとめて左遷された政府職員。サケの養殖によって生物の多様性が損なわれると指摘する生態学者。環境活動家は夜中、ダムにペンキで巨大なひびを描き、隣に「川を返せ」と書き込んだ。
一方でダム撤去に反対する声も根強い。「電源として必要だ」「職場を奪うな」。だが、流域で暮らすネイティブアメリカンにとっては、ダム建設は生活の場とコミュニティの記憶が奪われることに他ならなかった。
ダムの撤去によって堆砂が押し流され、川はかつての流れを取り戻していく。川が甦る事は、生態系の回復を通じて、かつて川からの恵みを受けてきた地域社会が「復活」していく可能性を含んでいる。
日本では、砂防や水源などとして依然ダムの役目は大きい。しかし日本でも、不要と判断されたダムの撤去工事が始まっている。時代の転換点を示唆する作品だ。11月22日から東京・渋谷のアップリンクで公開。他、各地で上映される。