[追悼] 有機農業推進に尽力、菅原文太さんが危惧した「ミツバチ大量死」問題

11月28日に亡くなった俳優・菅原文太さんは生前、環境問題やエネルギー問題など社会的な発言で話題を呼んできた。晩年は有機農業の推進に取り組み、危惧していたのが「ミツバチ大量死」の問題だ。今年6月には、「ネオニコ系農薬はミツバチ減少の要因である」と結論付ける国際的な発表会で、「原子力ムラと同じように、世界的に巨大な『農薬ムラ』がある。人々の暮らしに密接にかかわる重い課題だ」と力強く語っていた。(オルタナ副編集長=吉田広子)

TFSP・WIA東京実行委員会の代表として、挨拶をした菅原文太さん
TFSP・WIA東京実行委員会の代表として、挨拶をした菅原文太さん

15カ国、53人の科学者からなる「浸透性農薬タスクフォース」(TFSP)は今年6月、ネオニコチノイド系殺虫剤とフェニルピラゾール系殺虫剤(フィプロニル)に関する「世界的な総合評価書(WIA)」を発表した。

評価書では、これら浸透性農薬が無脊椎動動物種に著しい被害を与えていること、ミツバチをはじめとするハナバチ類減少の要因であると結論付けている。

この発表会の実行委員会代表が菅原文太さんだった。菅原さんは、2009年に山梨県北杜市で農業を始め、農業生産法人「竜土自然農園おひさまの里」 を設立。農薬を使わない、有機農業に取り組んできた。

そこには、「化学肥料、農薬を使う状況から脱却するために、有機野菜を率先して作る。安全な食べ物を作っていけるように、これからの農業を行う若者に農業を託したい」という思いがあった。

20年ほど前から、世界各地の科学者から昆虫の劇的な減少が報告されるようになり、その原因として、ネオニコ系農薬、フィプロニルといった浸透性農薬に注目が集まるようになった。だが、これまでその科学的根拠について徹底的な考察が行われてこなかった。

そこで、約5年前、生物学者のマルテン・ベイレフェルト・ヴァン・レクスモンド博士の呼びかけにより、TFSPが誕生。同タスクフォースは、独立した研究者の立場から800を超える学術論文を包括的に分析した。

その結果、規制措置の手がかりにするには十分な有害性の科学的根拠を見出したという。

菅原さんが「農薬ムラ」と表現したように、ネオニコ系農薬は世界中で使われ、世界の市場シェアの約40%を占める。2011年には26.3億ドル(約2700億円)を超える売り上げがあった。カメムシ防除のために田んぼに散布されるほか、猫や犬のノミ取り、シロアリ駆除剤として一般家庭でも広く使われている。

TFSP代替農業WG座長のロレンゾ・フルラン博士は発表会で「未来のことは分からない。しかし、浸透性農薬の使用は、科学的に『進むべきではない道』だということが証明された。私たちは、科学的な情報に基づいて、未来に向かって行動することはできる」と話した。

菅原文太さんの妻・菅原文子さんは、次のとおりコメントを発表。

「『落花は枝に還らず』と申しますが、小さな種を蒔いて去りました。一つは、先進諸国に比べて格段に生産量の少ない無農薬有機農業を広めること。もう一粒の種は、日本が再び戦争をしないという願いが立ち枯れ、荒野に戻ってしまわないよう、共に声を上げることでした。すでに祖霊の一人となった今も、生者とともにあって、これらを願い続けているだろうと思います」

菅原さんが蒔いた種が大きく成長することを願う。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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