今、国内外で「自転車シェアリング」が注目されています。コミュニティ・サイクルとして自転車を共有し、環境やコミュニティ課題などの複合課題に対応して共有価値を生んでいるこの仕組みについて考えてみましょう。(株式会社伊藤園 常務執行役員=笹谷秀光)
■ 世界遺産の街シラクサの「GO・BIKE」
先日、イタリアの南の地中海に囲まれたシチリア島を訪問しました。ギリシャ、ローマ、イスラムの文化が交錯した歴史が織りなす世界遺産が数多くある地域です。この四国ほどの島の南東にシラクサ(Siracusa)という世界遺産の街があります。
ここは、「ニュー・シネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」で有名なイタリアの名監督ジュゼッペ・トルナトーレ監督によるイタリア映画「マレーナ」(2000年公開)の主要ロケ地です。
この風光明媚な街で、G8環境大臣会合が開かれた2009年に、「GO・BIKE」と名付けられた「自転車シェアリングシステム」が導入されました。
観光の要所に駐輪場があり、レンタル自転車が収容機械に収まって10台~20台きれいに並んでいます。デザインも工夫され街並みに溶け込んでいて、世界遺産の街になじむ、景観にも良い仕組みです。一度登録料を払って登録をすればどこからでも借りられどこへ返してもよく、最初の30分以内の利用は無料、それを超えると時間当たり1ユーロで、1日に何度でも借りることができます。
短距離の移動には便利な仕組みで、2km程度の圏内で、世界遺産のオルティージャ島内やシチリア最大のギリシャ劇場などのある考古学公園を結ぶ形で駐輪場が12箇所設置されています。写真はアルキメデス生誕の地にちなんだアルキメデス広場の駐輪場です。
一時、盗難などが相次ぎ、中止の危機を迎えたこともあるようですが、現在は、盗難防止用の監視カメラなども設置されて改善がなされ運用中です。このような仕組みの運営には、国によっていろいろな社会的要因への配慮が重要なことが見てとれます。
■ パリの自転車シェア、ヴェリブ(Vélib):景観というもう一つの価値
自転車シェアリングの大規模な仕組みでは、その成功の草分け的存在はパリのヴェリブ(Vélib)です。フランス語の「vélo」(ヴェロ:自転車)と「liberté」(リベルテ:自由)を組み合わせた造語です。パリ市の運営で2007年7月からスタートし、世界最大の自転車シェアリングシステムとなっています。今や世界中にその仕組みが浸透しつつあります。
このパリの仕組みはGO・BIKEとほぼ同じで、バスやメトロを使うほどでもない短距離の移動には便利で、パリの人たちや観光客はこれを利用して、パリ市内を移動しています。
かつて私が住んでいた1980年代のパリは「黒い街」とまで言われ、大気汚染で街並みの建物自体が黒くなり、何年かに一度、外装の大掃除に多額の経費が掛かっていました。今や、軽快な自転車が走る環境の街へとその姿を変えつつあるのです。途上国では、次々に車、それも質の悪い中古車の台数が増えて、大気汚染でPM2.5が充満している中で、パリは何周も先を行っていると言えるでしょう。
「ツール・ド・フランス」という自転車レースをご存知と思いますが、毎年7月にフランス及び周辺国を舞台にして3000km以上のコースで行われる自転車ロードレースで、ゴール地点をシャンゼリゼに置いています。ヴェリブは自転車についての理解と車・自転車・歩行者の峻別ができているパリならではの仕組みです。