IUCN(国際自然保護連合)が定義する「絶滅のおそれのある野生生物のリスト」には、2014年11月時点で約2万2千種が登録されている。生物多様性の確保は喫緊の事項だ。本コラムでは、味の素バードサンクチュアリ設立にも関わった、現カルピス 人事・総務部の坂本優氏が、身近な動物を切り口に生物多様性、広くは動物と人との関わりについて語る。(カルピス株式会社 人事・総務部=坂本 優)
タヌキが、「ウスリアンラクーン」とも呼ばれることをご存知の方は、かなりの「タヌキ通」か「毛皮通」である。
カチカチ山などの民話や信楽焼の置物、あるいは「タヌキ寝入り」、「とらぬタヌキの皮算用」などの日常用語でも、日本人には昔からすっかりお馴染みのタヌキ。
しかし、野生動物として見たときには、元々は、東アジアの一角に分布が限定された、古いタイプのイヌ科動物で、近縁の動物もほとんどいないユニークな存在である(だった)。私たちが、「キツネとタヌキ」、「狐狸」など、しばしばタヌキと並称するキツネが、ユーラシアからアメリカ大陸に広く分布するのに比べると差は歴然だ。
しかし、ユニークであっても注目されることのない地味な存在で、これは日本人のみならず、例えば上野動物園に来園する欧米の人々も殊更にタヌキを珍しがることはないと聞いた。理由の一つは英文名によると言われる。
タヌキの英文名は「ラクーン ライク ドッグ」、「アライグマのようなイヌ」で、しばしばラクーンドッグと略称される。そして見た目もアライグマに似ている。アライグマというイメージが、欧米人に対して、タヌキという種の希少性を損なっているようだ。
タヌキは自然界ではキツネなどに駆逐され、進化史的なタイムスケールで見ると、滅び行く古いタイプのイヌだった、という見方もある。しかし、現実には、日本では、おそらくここ100年来、タヌキのほうがキツネに比べ、はるかに生息数が多い。半世紀近く前でも、年間の狩猟統計などの捕獲頭数は、キツネが数千なら、タヌキは数万というレベルで違っていたと記憶する。