齊藤 紀子(企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長)
今回のコラムでは、2014年9月18日・19日に早稲田大学で開催したJFBS第4回年次大会での企画セッション3「持続可能性と金融市場」における報告内容を紹介します。
4人のゲストスピーカーから、21世紀金融行動原則(持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則)の策定や日本版スチュワードシップ・コードの発表など、日本の金融市場における最近の動向紹介がなされました。そして巨大な機関投資家GPIFによるESG投資がもたらす効果、持続可能性のために金融市場が果たしうる役割などについて、それぞれの立場から問題提起が行われました。
山本利明教授(大阪電気通信大学金融経済学部)からは、世界のSRI市場の動向が報告され、日本版スチュワードシップ・コードが日本のSRIおよびESG投資にもたらす影響や今後の課題について問題提起がなされました。
2012年時点で世界のSRI市場における日本のシェアは0.1%程度、資産残高としては欧州の875分の1、アメリカの375分の1です。こうしたデータをもとに、これまで日本でのSRIの普及度は欧米と比べて著しく低いことが指摘されてきました。
山本教授は、この規模の違いは機関投資家が取り組んでいるかどうかに由来する「定義の問題」であること、もはや「先進的な欧米、遅れをとる日本」という発想はすべきでないことを指摘しました。欧米では機関投資家の存在感が大きく、投資家全体の実に9割以上を占めているのに対して、日本では個人投資家が主役という状況が続いてきました。
しかし2014年2月の日本版スチュワードシップ・コード発表以降、同年6月までに金融機関・運用会社・年金基金など127機関がこれを受け入れています。こうしたESG投資に対する関心の高まりをみても、状況が今後大きく変わっていく可能性があります。
政府主導で策定された日本版スチュワードシップ・コードが機関投資家に対して、エンゲージメントをもって企業価値の向上や持続的成長を図り中長期的な投資リターンを拡大するよう課したことは、政府によるESG投資の促進という意味で意義深いといえます。
民間の側でも、PRI(Principles for Responsible Investment)や21世紀金融行動原則への署名など内発的な取り組みの経験が蓄積されつつあり、今後具体的な投資行動へ結実し責任ある投資がメインストリーム化していくことが期待されます。
ただエンゲージメントの導入は簡単ではないことから、こうした動きが形式主義に陥らないよう、機関投資家間や投資家と経営者間の情報交換の場をもうけていくなどの規律付けが必要であると山本教授は指摘しました。