環境NGOのグリーンピース・ジャパンはこのほど、農薬使用が人の健康に及ぼす影響に関する調査レポートを発表した。国内外の論文・文献160本以上を検討した上で、胎児や乳幼児は農薬の影響を受けやすいと指摘。また、複数のがんやパーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変異疾患の発生率が上がったとの研究結果がある、などとしている。(オルタナ編集委員=斉藤円華)
■発達中の脳にも影響
レポートは「農薬と健康—高まる懸念」で、5月に発表された英語版を邦訳したもの。これによると、人が農薬にさらされる経路は農作業に限らず複数あり、食物や空気、飲料水、住宅のほこり、殺虫剤の噴霧、土などを介する。また、食物には複数の農薬が混合して残留することが確認されている。混合した農薬の複合毒性についての知見は少ないが、ある農薬同士では相乗効果が働き、その影響は個々の農薬よりも大きいという。
中でも胎児や乳幼児は、胎盤や母乳を介して農薬を摂取。発達中の脳は神経毒性を持つ物質の影響を受けやすく、また、子どもは農薬を解毒する体内の働きが低い。
カリフォルニア州の農業地域で行われた調査では、有機リン系農薬にさらされる量が多い母親の子どもは、さらされる量が少ない子どもに比べて、IQ(知能指数)が平均7点低かったとの結果が2011年に示されている。また別の調査でも、発達中のヒトの脳において、出生前に有機リン系農薬にさらされることで、脳内の構造変化が起きることが統計的に関連付けられた、とされる。
レポートではこのほか、成人のがん、神経系や免疫系、内分泌系への農薬の影響についても言及。さらに「農薬のカクテル」にさらされることで生じる長期的な影響は予測不能で、ヒトが日常的にさらされている有害物質は農薬だけではない、とも指摘した。
解決策としてレポートは、大量の農薬使用が不可欠な「工業型農業」から「生態系農業」への移行を提案。土地の生態系の多様性を高めて行う「生物学的防除」を通じて合成農薬の使用を全廃することが、ヒトの健康へのリスクを回避するには不可欠だ、としている。