ギターやバイオリンの音は身近なものですが、「それらの弦楽器が何でできているのか」、考える機会はめったにありません。もちろん楽器も経済を支える商品の一であり、資源(木材)を使って作られています。ところが、その原料となる黒檀が今、密かに危機に瀕しているのです。絶滅危機に瀕する黒檀取引を変えた米ギターメーカー、テイラー・ギターズを紹介します。(サンフランシスコ=藤美保代/InterAction Green)
![テイラー・ギターズのサプライ・チェーン・ディレクターであるチャーリー・レッデン氏。向かって左側が従来A級とされてきた真っ黒な黒檀。右側が今まではB級とされ、切り倒されたまま放置されていた黒檀。B級を使っても、品質には何の影響もないという。](https://cdn.alterna.co.jp/wp-content/uploads/2016/02/24033327/f3ea3e264ca8f9361328057a6268a211-300x193.jpg)
楽器の原料となる木材は、木なら何でもよいわけではなく、強度や重さなどの特性により、厳選された木材が使われます。
ギターなら、ボディはマホガニーやメイプルなど。弦を指で押さえるための細長い部分、フィンガーボード(指板)は、ほぼ100%エボニー(黒檀/こくたん)です。ギターでもバイオリンでも指板が常にすべらかな黒なのは、固くて密で、美しい光沢のある黒檀が使われているからなのです。
ところが、その黒檀が今、密かに危機に瀕しています。ギターやバイオリンのメーカーは、近い将来、硬質さと黒い光沢を併せ持ったこの理想的な素材を、手に入れることができなくなるかもしれません。
■違法伐採で黒檀の森はほぼ消滅
風光明媚な米国西海岸の都市・サンディエゴに本社と生産拠点を置くテイラー・ギターズは、楽器産業が知らずのうちに直面しているこの「黒檀危機」を、自らの力で解決しようとしています。
老舗であるマーチンやフェンダーを抜き、いまやアコースティック・ギター部門で全米トップの売り上げを誇るテイラー・ギターは、1974年にボブ・テイラーらによって創立され、匠の技とテクノロジーを融合させた製造方法で、ハイエンドのアコースティック・ギターを開発し続けてきました。
水の流れのような清明で澄んだ音が特徴で、テイラー・スウィフトやジェイソン・ムラーズなどの一流ミュージシャンにも愛用者が多いことで知られています。
テイラー・ギターは、指板に使用する黒檀を、25年前から中部アフリカのカメルーン産でまかなっています。そもそも黒檀は、アフリカ中部、マダガスカル、インド地域などの限定された熱帯雨林にしか自生しない、希少な種。
しかし、弦楽器以外にも家具、装飾品、ピアノの黒鍵などに使われ、高い商品価値があるために、人々は、ある産地の黒檀の森を切り開いては木を切り尽くし、なくなったら次の産地へ行き、またなくなるまで切り尽くす――という破壊的な慣習を続けてきたのです。