ANAグループと富士ゼロックスは、飛行機の「貨物の隙間スペース」を活用した途上国支援を試験的に実施した。使わなくなったノートPCをフィリピンの地方大学に届け、ICT教育に役立てるというリユースプロジェクトである。(ライター・瀬戸義章)
PCを提供したのは富士ゼロックス。業務に使用しなくなったノートPC10台を、データ消去・OS再インストールをした後に、ANAグループの一員で貨物事業を営むANA CargoとOCSがフィリピンのギギント大学に届けた。大学では日本のNPO法人、情報教育支援研究会によるプログラミング講座などが行われる予定だ。
■異業種間で目的が合致
ANAグループは、これまでにも災害時の物資支援などで輸送協力を行っていた。今回のリユースプロジェクトは、恒常的にそうした社会貢献ができないかと模索するための第一歩だ。
ANAと富士ゼロックスという異なる企業同士が連携できたきっかけは、「バーチャルハリウッド」と呼ばれる社員提案の仕組みだ。これは、ハリウッド映画のように顧客や社会に「感動」を与える企画の実現を目指し、組織・会社の枠を越えたチームで、社員が自発的に活動する取り組みである。
1999年に富士ゼロックスが社内活動としてスタートさせた仕組みだったが、共感する企業が現れ、現在は富士ゼロックスとANAを含めた12社と慶應義塾大学大学院による「バーチャルハリウッド協議会」が運営されている。
こうした枠組みのなかで、ANAの「貨物の隙間スペースを社会のために活かしたい」というテーマと、富士ゼロックスの「使われなくなったパソコンを途上国に届けたい」というテーマが出合い、今回のリユースプロジェクトの実現に至った。
■個人のプロジェクトが全社的な活動へ
もともと、社内で使われなくなったパソコンを途上国に提供するという取り組みは、富士ゼロックスの山口真司氏が1人で始めたプロジェクトだった。山口氏は、かつて青年海外協力隊として派遣されたガーナで、ICTを教えたくても機材が無いため教えられないという悩みに直面した。
そこで帰国後、週末の空き時間を利用して古いPCを集め、リフレッシュして送る活動を始めた。「バーチャルハリウッド」などの制度やNPO法人Class for Everyoneとのパートナーシップにより活動は発展し、現在ではグループ各社合計で900台近いPCを世界各国に送り届けるまでになっている。
「最初は一人の思いだけでやっていた活動ですが、今こうして社外の方とも一緒にできるようになりました。こつこつとやってきた甲斐があったと感じています」(山口氏)
今回、ANAが試験的に行った貨物の「隙間スペース」による途上国支援だが、継続的な実施につなげるためには、日本でのハンドリング・輸出入通関・現地配送の方法やコストをどうするかなどの課題を検討し、解決していくことが必要となる。
「どこに何を送れば航空便のメリットが一番発揮できて喜ばれるのかを検証し、うまく続けられる形を探していきたいと思います」プロジェクト発起人の一人であるANAの日髙佑輔氏はそう話した。