東日本大震災の被害を受けた小・中学校の先生と生徒たちが、米国から招いたダンサーやシンガーと共に1時間のショーを作りあげ、保護者や地域の人々に観てもらうワークショップ「ヤングアメリカンズ東北ツアー2015」。辛い経験をしている子どもたちが自信を獲得し、未来を切り開く力を得る「心の復興」のためのプログラムだ。JCBが実施する「『5』のつく日。」の復興支援を受けて、継続的な活動を展開している。(ライター・瀬戸義章)
体育館のドアが開くと、「ハロー」という大声とともに、陽気な外国人のお兄さん、お姉さんに出迎えられる。圧倒的な歌とダンスが披露され、「カッコイイ」と見ていたら、「明日の夕方、お客さんの前であなたたちにも踊ってもらいます」。子どもたちは「無理。そんなのできっこない」と消極的だ。
「ヤングアメリカンズ」は歌やダンスのワークショップを提供する米国の非営利組織。約300人の団員が所属し、活動先は世界55カ国に上る。初来日したのは2006年。東日本大震災以降は、東北の小・中学校を中心に回るツアーを実施し続けている。参加者は2万人を超えた。
■全身で「大丈夫」を伝える

東日本大震災から5年が経ち、特に被害の大きかった沿岸部を除いて街並みは元通りになってきた。楽しそうに登下校する子どもたちを見れば、平和な日常を取り戻したかのように思える。
だが、表に見えない課題は多い。
「故郷に帰る・帰らない」といった意見の対立から離婚。イジメにあうから、ふるさとのことを話せない。親に負担をかけまいと我慢して、ずっと「いい子」であり続けてきた。自分の気持ちは、伝えないほうがいい――。
東北ツアーを主催するNPOじぶん未来クラブの林貴美子理事は、5年を経て浮かび上がってきた子どもたちの問題を各学校の先生から聞かされていた。もともと宮城の不登校率は全国的に高かったものの、文部科学省の調査によれば、震災後、岩手・宮城・福島における小・中学生の不登校率は、この5年で増加している。
そこで、ヤングアメリカンズの東北ツアーでは、子どもたちに笑顔を取り戻してもらい、未来に向けて立ち上がる勇気を与えることを目指す。
ワークショップでは、米国から招いたヤングアメリカンズの若者と共に1時間約30曲のショーを作りあげる。一つのダンスを覚える時間はたった7分。どの先生にしようか迷っていると、あちこちでみんなが踊り始めている。30分後はコーラスの練習、ソロパートもある。それからパフォーマンスの練習だ。
1日があっという間に終わり、2日目の夕方にはもう本番。保護者や地域の人々を相手に、1時間のショーが始まる。暗いことを考えるヒマもない。
「正しく踊らなくていい。ただすべてを出し切って」。そう言われながら、回って、跳ねて、揺らして、ステップを刻む。顔も腕もお尻も脚も、指先からつま先まで、全身を使って「表現」する。
分からなくて困っていると、ヤングアメリカンズがそっとそばに来て、目の前でもう一度お手本を見せてくれる。手を握って、背中を支えて、ハイタッチをして、ハグを交わして、日本語以外の全部で、「大丈夫」と伝えてくれる。
本番は、笑顔と歓声が体育館にあふれる。
■「子どもの可能性を決めつけない」

「いわきの小学校で、屈強な男の先生が号泣していました」。林理事は、3年前のワークショップを振り返る。
「『いま前に立っている子は自分のクラスの子で、この半年間一度も声を聞いたことがなかった。手も上げないし、何を言っても話をしてくれなかった。その子が今、生き生きとソロパートを歌っている』とおっしゃるのです。『自分たち教員は、教室という四角い箱の中で、子どもたちの役割を決め付け、可能性を引き出せていなかったんじゃないか』と」
ヤングアメリカンズのワークショップで提供するのは、「できる」という可能性と自信、そして強さだ。それを子どもたちだけでなく、接する大人たちにも分かちあっている。
79日間に渡った2015年の東北ツアーは、クレジットカード会社であるジェーシービー(JCB)をはじめ、さまざまな企業や個人の協力を受けて開催された。JCBは、「『5』のつく日。JCBで復興支援」という取り組みを通じて東北ツアーを支援している。
「『5』のつく日。」は、対象期間の「5」のつく日にJCBカードを使って買い物をすると、利用1回につき1円がJCBから寄付されるという仕組みだ。今年も2月から5月まで実施し、ヤングアメリカンズの東北ツアーをはじめ、東北の復興支援活動を支援する。
通常のツアーであればヤングアメリカンズは訪問先にホームステイするが、仮設住宅の多い地域ではそれもできない。機材を積んだトラックとともに、40人のスタッフがバスで三県を回るためには、こうした支援が欠かせなかった。
「企業の社会貢献という形で、東北の子どもたちに心を寄せてくださったことに感謝しています。これからも、大変な経験をした彼らに『自分自身を信じていく力』を提供し続けていきたいと思います」(林理事)