ARTS for HOPE(東京・千代田)は「ものづくり」と「アート」を楽しむプログラムを提供することで、東日本大震災被災者の心をケアし続けている。彼らのテーマの一つは、障がいを抱えた子どもたちのサポートだ。つらい被災生活を経験した彼らは心に大きな傷を負っている。ARTS for HOPEは施設をカラフルに塗装するワークショップや、自然に親しむツアーを実施することで、そんな子どもたちの暮らしに彩りを取り戻そうとしている。(ライター・瀬戸義章)
障がいを抱えた人々に対し、災害は大きな試練を課す。耳が聞こえなければ、防災無線で津波が迫っている事に気付けない。目が見えなければ 仮設のトイレの使い方が分からない。車いすでは、避難所の玄関口に敷かれたすのこを越えることができない――。
宮城県が2012年にまとめた『障がい者の人的被害の状況』によれば、東日本大震災時の障がい者死亡率は全体の4倍を超える。
震災前は、知的障がいや精神疾患があっても穏やかだった子どもたちが、震災で心に傷を負い、さらにその恐怖や不安をうまく伝えることができず、月日が経つにつれ、乱暴な行動をとるようになったという事例もある。
「障がい者の方々が大変な状況にあると聞いて支援に回るまで、タイムラグがありました」
ARTS for HOPEの高橋雅子代表はそう語る。障がい者本人だけでなく、家族も他人に話そうとせずに我慢するからだ。
それでも母親が少しずつ声を上げ始め、「それぞれの家庭で抱えるのは重すぎる。共同で居場所を作ろう」と気仙沼にグループが立ち上がったのは2013年。そして、「障がい児施設を『アートリノベーション』してほしい」という依頼を高橋代表が受け取ったのは、その夏のことだった。
■ 仮設にもっと彩りを
ARTS for HOPEは「ものづくり」と「アート」を楽しむプログラムを提供することで、東日本大震災被災者の心をケアし続けている団体である。「アートリノベーション」は、古い公園や暗い児童館を、子どもや親、地域の人々と一緒にきれいに塗り直す活動だ。
少しずつ、工事現場のようなプレハブの福祉事業施設「ほっぷ」に色が塗られていく。見ていた子どもたちが、興味を持って参加しだす。すると、面白くてしょうがない。みるみるピンクとブルーの楽しい建物に生まれ変わっていく。
「最初、発達障がいの子たちはうつむいて顔を見せてくれませんでした。でも、みんなで壁をきれいにしていくうちに、表情が変わってくるのです。『色』は、言葉のいらないコミュニケーションツールとして、凄く良いと実感しました」(高橋代表)
■ 地域、年齢、性別、障がいを超えて
ARTS for HOPEが次に取り組んだのは、2泊3日のアートキャンプだ。避難先や仮設住宅で生活する子どもたちに、のびのびとした時間を過ごしてほしいという思いから、この企画は生まれた。
2015年に実施されたアートキャンプでは、岩手・宮城・福島の3県から70人の子どもが参加した。そのうち16人が聴覚障がいを抱えた子どもたちだ。
日本の伝統色をつくる、山登りしながら自然から色になるものを探す、拾ってきたもので作品をつくる。さまざまな共同作業を経て、誰とでも仲間になっていく――。3日目には、「聞こえる子と友達になれて嬉しかった」など、みんなの前で自分の思いを発表することができた。
「ワークショップを通じて『何もかもが無くなっても、創造力と思いがあれば、すべてをつくりだせる』という勇気を得てほしいと思っています。それは、いつかまた起きる災害を乗り越えるために必要な力です」(高橋代表)
2015年のアートキャンプを支援したのは、クレジットカード会社のジェーシービー(JCB)である。JCBは、「5」のつく日にカードを使って買い物をすると、利用1回につき1円が寄付されるという「『5』のつく日。JCBで復興支援」を2011年から続けている。
「私は震災当時から、復興には最低10年かかると思っていました。ですから、こうして震災から時間が経っても支援してくれることに感謝しています。今後も地域のニーズに合わせて、繰り返し繰り返し、希望を感じられる展開をしていきたいと思います」(高橋代表)