東日本大震災をきっかけに開発された移動薬局車両「モバイルファーマシー」が熊本地震の被災地で初めて活用され、救護活動に成果をあげた。宮城県薬剤師会が開発したもので、現在4県の薬剤師会が保有している。ポータブル発電機、ソーラーパネル、水タンクなどを搭載し、ライフラインが途絶えた被災地でも自立的に活動を行うことができる。熊本でも地震発生直後から調剤や被災地医療の拠点として機能した。(箕輪弥生)
東日本大震災では、被災地での医薬品供給体制がほぼ壊滅し、調剤設備が使えず、医薬品を供給できない事態が発生した。この問題をきっかけに宮城県薬剤師会が開発したのが移動薬局車両「モバイルファーマシー」(MP)である。同車両は、ライフラインが途絶えた場所でも稼働できるように、発電機、ソーラーパネル、水タンクやデジタル無線機、調剤に必要な機器などを備えている。現在4県の薬剤師会が保有しており、4月の熊本地震で初めて活用され、3県の車両が熊本に駆け付けた。
そのなかで地震発生直後から移動薬局車両で活動していた、大分県薬剤師会の伊藤裕子理事にお話を聞いた。同薬剤師会は、地震発生の翌日4月15日から5月29日まで被害の大きかった益城町で災害支援薬剤師による調剤業務を行い、計2,162枚の処方箋を調剤し、医薬品を提供した。
伊藤理事によると「超急性期には外傷の患者もいたが、急性期以降は高血圧、糖尿病など慢性疾患薬や、長引く避難所での生活のため、抗不安薬や、睡眠薬のニーズが増えた」という。
今回MPを出動させたことにより、震災翌日から被災地で自立した形で調剤業務を行うなど移動薬局としての力を発揮した。さらに、災害派遣医療チーム「DMAT」との連携で初期の災害医療を行い、日本医師会災害医療チーム「JMAT」との連携で地域医療の復活までの橋渡しをするなどした。震災直後から地域の薬局が稼働するまでの間をカバーし、つなげる役割を担うことができたと伊藤理事は振り返る。
今回の経験から「移動薬局が緊急時の調剤を担うだけでなく、巡回診療における薬剤師チームの拠点となるなど、震災時の医療活動の拠点になることがわかった」と伊藤氏は話す。この活動結果をふまえて「今後は、搭載する医薬品の見直しや、DMAT、JMATとの協働体制をさらに強めていきたい」(伊藤氏)としている。