ゲイツ財団の「成果を求めるフィランソロピー」とは

「ビル・ゲイツやザッカーバーグのように、ベンチャーで成功した人が、フィランソロピーを当たり前に行う社会をつくっていきたい」ーー。楽天の三木谷浩史会長兼社長(新経済連盟代表理事)は今年4月、東京で開催された新経済サミット2016で語った。ビル・ゲイツ氏が私財を投じて立ち上げたビル&メリンダ・ゲイツ財団は、「成果を求めるフィランソロピー」を進めている。

例えば、ポリオ撲滅を目指すとすれば、課題解決力のあるNPOへの財政支援だけではなく、製薬会社による薬品開発も支援する。さらに、パキスタンがポリオ撲滅のために日本政府からの借り入れをする際には、「(ポリオ撲滅という)成果を出したら日本政府への借金返済を肩代わりする」ということもする。

こうした資金支援、つまり、ポリオ撲滅という成果を出すことにこだわり、資金や技術、ネットワークも提供する財団が日本にも増えてくると、間違いなく日本社会の課題解決のスピードは速まっていくだろう。

今、社会イノベーションとお金との間に、新しいパラダイムが生まれつつある。それは世界の潮流でもあり、日本もその例外ではない。2014年のロンドンサミットでのキャメロン首相の提案を受けて作られたのが「G8社会的インパクト投資タスクフォース」である。

その報告書のサブタイトルは「Invisible Hearts of the Markets(市場の見えざる心)」。経済学を昔勉強した方ならご存じだろう。「国富論」のアダム・スミスの提唱した「神の見えざる手」をもじって作られたキーワードだ。

この背景にある趣旨はこうだ。アダム・スミスが提唱したのは、一人ひとりが利潤の最適化を目指して行動すれば、結果として市場は最適化され、それで国は豊かになるということ。

しかし、アダム・スミスが生まれてもうすぐ300年。この時を経て、世界は、利潤最大化と税金による所得配分、それだけでは本当の意味では豊かになれない時代を迎えたということでもある。

「市場の見えざる心」とは、一人ひとりが市場の中で、一人ひとりの心の声に従って、社会に変化を生み出す行動をすることが、結果として人々を本当の豊かさに導いていくということだ。G8タスクフォースの代表のコーエン卿(英国)は言う。

「先進国すべてが低成長と財政難、そして高齢化を迎えた時代には、『神の見えざる手』だけでは不十分だ。しかし、税金による配分は非効率を生む。この間を埋めるものが重要なのだ」

今、日本社会は大きな転換点にある。課題先進国日本で大きな社会イノベーションを生み出すために、必要なのはイノベーションの担い手であると同時に、そのイノベーションを加速化させる「成果志向の」資金の存在だ。G8タスクフォースの報告書では、休眠預金の社会的活用や社会的投資減税などの具体策も提案されている。新経済連盟はベンチャーフィランソロピーが進むための制度改善の提案を政府にし始めている。日本でもこうした動きがこれからますます加速化してくることに期待している。
(雑誌「オルタナ」45号から転載しました。オルタナの購入はこちら

uomasa

鵜尾 雅隆(日本ファンドレイジング協会代表理事)

連載:社会イノベーションとお金の新しい関係 日本ファンドレイジング協会代表理事。国際協力機構、外務省、米国NPOを経て、ファンドレイジング戦略コンサルティング会社ファンドレックス創業。寄付、社会的投資の進む社会を目指して日本ファンドレイジング協会を創設。著書に『ファンドレイジングが社会を変える』など。

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