日本初、トランスジェンダー男性議員が誕生

3月12日に行われた埼玉県入間市議会議員選挙で、民進党公認候補者の細田智也さん(25)が初当選した。細田さんは女性から男性に戸籍を変えたFTMのトランスジェンダー男性だ。LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)だけでなく、高齢者や障がい者、一人親家庭などさまざまな人の声を市政に届けることを訴え、定数22のところ21位で当選した。LGBTの相談窓口の設置や予防医療の推進、母子・父子家庭の支援などを目指す。細田さんに話を聞いた。(ライター・遠藤一)

埼玉県入間市議会議員選挙で初当選した細田智也さん

細田さんは、トランスジェンダーであることを公表して当選した地方議員としては、2003年の世田谷区議会議員上川あやさんに次いで二番目、「トランスジェンダー男性」としては日本初となる。

細田さんは埼玉県飯能市に生まれ、中学生になると同時に入間市に移り住んだ。第二次性徴で胸がふくらみ始め、「気持ち悪いな」と違和感を持つようになった。中学では駅伝に没頭したが、高校で入った陸上部のユニフォームが「女性的で身体にぴっちりした」デザインのため、やめてしまった。

「女性として大人になる自分が全く想像できませんでした。10代のころは何をするにも『女の子のくせに』と思われているのかなと、ずっとまわりの目を気にしていました」(細田さん)

■性に悩む小中学生を勇気付けたい

大学2年の時、信頼している母親にカミングアウトすると受け入れてもらえた。それをきっかけに乳腺切除と卵巣摘出手術、改名、戸籍性別変更を行い、千葉県にある性的少数者の啓発活動をする団体の手伝いもするようになった。卒業後は臨床検査技師として地方の公立病院で勤務した。

2016年11月に退職し、以前から関心のあった性感染症の勉強をしようと、学会にアクセスしやすい入間市に戻った。

「大学時代に地元から遠い千葉で活動していても、自分の周囲は変わらないだろうなと思っていました。地元に戻ったことをきっかけに、当事者として体験談を話すなど活動していきたいと思いました。セクシュアリティに悩む小中学生たちに『目の前にいる』と知ってもらうことで勇気を出してほしい」(細田さん)

■行政の力でLGBTを周知する

活動の始め方がわからず、市役所にメールして「教育現場などで体験談を話したいが、どうすればいいか」と問い合わせた。するとLGBTへの理解について議会で取り上げたことのある入間市議会議員の関谷真奈美さんから「自分のセクシュアリティを公表できる当事者がいるならぜひ会いたい」と返事が届いた。

何度か会うち、関谷さんから「行政の力を使えばLGBTのことを広く周知することもできる。選挙に出ないか」と薦められるようになった。

細田さんは、「最初は全然ピンときませんでした。けれど選挙の当落は関係なく、トランスジェンダーであることを公表して選挙運動すれば『こんな人が入間市にいるんだ』と知られるきっかけになるのではと思い、立候補を決めたのです」と振り返る。

当選する自信は全くなかったという。シャイな細田さんは、街頭演説も得意でなく最初はほぼ行わなかった。

関谷さんが同行し、応援演説をしてからマイクを渡すと、次第に一人でも話せるように。選挙前日には10カ所以上で演説することができ、「がんばってね」と声をかけられる回数も増えた。

開票では深夜の最終確定発表までもつれこんだが、1134票を得て当選することができた。

「様々な人が存在すると周知を広めることで、性別や年齢、障がいのあるなしに関わらず、皆が思いやりを持てる市にしたい。まずは6月の議会で堂々と質問していくなど、私自身が議員としてしっかりやっている姿を見せることも大事な周知だと思っています」。細田さんはそう力を込めた。

◆トランスジェンダーとは
出生時の生物学的な性別と性自認が異なる人。トランスジェンダーは、医学的な疾患名である「性同一性障がい」よりも、広義の意味で使われることがある。L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)とは異なり、性的指向を表す言葉ではない。LGBTを含めた性的少数者の割合は、7.6%に上るとされる(2015年、電通ダイバーシティ・ラボ)。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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