少し前の話になるが、6月末に高校時代以来30年ぶりに米国カリフォルニア州の州都サクラメント市を訪れた。Green Sports Alliance (GSA)という、すべての米プロスポーツリーグが参画するサステナビリティ関連イニシアチブの年次サミットに出席するためだった。
GSAは、温暖化防止を中心としたサステナビリティを推進するイニシアチブで、全米のプロスポーツリーグ、チームのほとんどが加盟し(NHLとMLBについてはすべてのチームが加盟、NBA、NFL、MLSについてはそれぞれ73%、56%、36%)、アリーナなどの施設も含めると会員団体数は500ほどにもなる。
GSAサミットは、2011年から米国各地で開催され、今年は約750人が参加、その4分の1はプロスポーツリーグや施設関係者だった。今年は各プロリーグのサステナビリティ関連部署の責任者が勢揃いしたパネルもあり、各チームのCR(コミュニティ・リレーションズ)やサステナビリティ担当者に加え、アリーナ運営責任者、環境システム開発会社や専門家、研究・教育機関やアスリートなど、スポーツとサステナビリティに関わる様々なステークホルダーが集まった。
その会場として使用されたのが、全米一のサステナビリティに配慮したアリーナと言われる、サクラメント・キングスのホーム「ゴールデンワン・センター」で、キングスのオーナー、プレジデント、サクラメント市長と、経営のトップが登壇した。
よく「CSRの意義をトップに理解してもらうのが大変」というが、キングスのプレジデント(当時)、グランジャー氏を取材した際に「サステナビリティに配慮しなくてはならないのはコストがかかりますが、正直なところ経営トップとして取り組みは大変ではないですか」と質問してみても、間髪入れず完全否定の回答だった。
その理由は、第一に「我々のコミュニティが求めていることなのでやらなくてはならない」ということだった。グランジャー氏の揺るぎない眼差しは、「スポーツファンではない人」をも含むサクラメント・コミュニティ全体を見通していた。
もうひとつの理由は、「長期的にはメリットが大きい」という経営上の利点で、目先の利益よりも長期的な繁栄を選択する基準があった。アリーナ空調システム会社も「初期コストはかかるが、投資価値が十分にあることをチーム側は理解している」と答えてくれた。政府や権威者に言われたからやるのではなく、「サステナビリティに投資する」という「経営判断」だ。
各チームの担当者がパネルで共有してくれた苦労話などからは、現場レベルではまだサステナビリティが主流とは言い切れない状況も感じられたが、経営トップのコミットメントと実際のサステナビリティを重視した経営判断には感銘を受けた。
メインパネルで事例紹介されたのは、ちょうどサミット数週間前の大学講義で私も紹介したばかりの「NBA Green」のキャンペーンだった。NBAとWNBAの人気選手が緑のユニホームで登場し、温暖化防止のアクションを喚起するPVを見て専用ラインにテキストメッセージを送ると「日々の心がけリスト」が届き、抽選で翌シーズンの観戦チケットが当たる、というものだ。
単にファンへの温暖化防止啓発活動だけではなく、環境問題に関心がある人を、バスケファンにする仕組みも組み込まれている。
普段クライアントや学生にスポーツの社会的責任(SSR)について説明するとき、繰り返し強調しているのは「ファンを動かすこと」だが、NBAグリーンのキャンペーンは、シンプルだが的を射たSSRの好事例である。
NBA関係者は「CSR」を使うことが多いが、SSRのポイントを堅実に実践しており、「地域密着型プロスポーツが主体となって実施するSR活動」においては、「その知名度と影響力を効果的に活用し『より多くの人を巻き込む』ことが最重要である」というのは世界共通の認識だ。
ところで、サステナビリティの観点からゴールデンワン・センターの取り組みが評価されているのは、節電システムや革新的な空調システムといったハード面だけではない。例えば、アリーナ内で提供される食事の材料の9割はアリーナの半径150マイル(240km)以内から調達し、廃棄食料は肥料にして地域で再利用される、といった具合に、日本で注目されるIT以外の部分でもサステナビリティを貫いているところだ。
オリンピック関係ではいろいろな施策もあるようだが、日本でのスタジアムアリーナ整備にも、是非こういった視点やマインドセットを活かしていただければと思う。
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