なぜいま「ESG」と「SDGs」なのか

最近、企業の評価には財務情報のみならず非財務情報が重要であるとしてESGが話題になっている。EはEnvironment(環境)、SはSocial(社会)、GはGovernance(ガバナンス)の略語である。この動きとCSR/CSV/SDGsの関係を整理しておきたい。(伊藤園 常務執行役員=笹谷秀光)

筆者の笹谷氏、国連大学前で

なぜESGか

ESGは投資家サイドから見た、企業の統治と社会や環境への要請である。ESGにきちんと対処している企業への投資が、社会、環境のためにもなり、また、これら非財務情報も評価しないと企業価値が測れないとの流れから来ている。特に、本年の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のESG投資への方向性を受けて、急速に日本でも動きが加速している。

さて、ESGを理解するうえでは企業の社会的責任(CSR)が基本になる。また、ESGでは社会に対してどのような価値を創造しているかを問われるため、共有価値の創造(CSV)も重要な要素だ。加えて、2015年に定められた世界的な持続可能性に関する共通言語ともいえる持続可能な開発目標(SDGs)が2030年に向けた目標を提示している。

ESG、CSR、CSV、SDGsと、いずれも横文字で、海外発の考え方である。日本の企業現場ではこれらの新概念が次々と打ち出され、相互の関係について明確な整理が出来ていないため混乱が見られる。

また、担当部署もESGはIR、CSRはCSR推進部、対外発信は広報部、CSVは事業担当など担当が分かれているため社内の調整も難しくなりがちである。これらの概念を総合的に理解して「自分ごと化」し、「腑に落ちる」形で理解を深め、社内を牽引していく人材が求められている。

持続可能性に関連する世界の動き

これらの概念はすべて持続可能性に関連するが、遡れば、ここ数年の動きだ。CSRでは国際規格「社会的責任の手引き」(ISO26000)が発行され(2010年)、マイケル・E・ポーター教授らによるCSVの提唱(2011年)、GPIFのPRIへの署名(2015年)で加速するESG、国連でSDGs策定(2015年)と立て続けに出てきた。

また、これらは、実施の報告義務や実施しなければペナルティーがあるといった従来型の規制的なものではなく、ガイダンスとして自らの組織の中で経営に組み込んでいくタイプのものが多いという特色もある。

東京五輪・パラリンピックがよい機会

しかし、これらを実施するかしないかで企業価値に大きな差がついていく。特に、2020年の東京五輪・パラリンピックを迎えるにあたり、国際的な持続可能性についての動きが加速しこの傾向が強まる。

例えば、五輪における食材から資材の調達ルール、持続可能なイベントのやり方、五輪の施設整備・運用などすべて持続可能な価値観のもとで規律されていくことになる。

2020年の五輪に向けて、そして2020年を超えてこれらの価値観に基づく動きが加速し、五輪パートナーのみならず広く企業活動全般に影響を与えていくことは間違いない。

持続可能性の関連用語

非財務情報の統合化とサステナビリティ経営

したがって、一刻も早く日本企業もこれらの関連用語を自分事化して使いこなすべきだ。そのためにはその前提として、日本語になりにくい概念のLearn (学び)と Unlearn(学びなおし)が必要だ。

一度、訳語も含めて捉えなおしが必要である。例えば次の通りだ。

CSR (Corporate Social Responsibility) :企業の社会的責任―>企業の社会対応力
「責任」という日本語が受け止め型なので、「Responsibility=Response+ability」と理解する。

CSV (Creating Shared Value) :共有価値の創造―>ウイン・ウイン関係の構築
「共有」との言い方がわかりにくいので、この方が提唱された考え方に近い。

SDGs (Sustainable Development Goals) :持続可能な開発目標―>持続可能性の共通言語
「開発」というと途上国を想起しがちであるが、先進国にも適用される。

Sustainability:持続可能性―>「世のため、人のため、自分のため、そして、子孫のため」という世代軸が入った考え。

いかがであろうか。

これらはすべて「非財務情報」に関連している。この際、これらの概念と、非財務情報の報告(レポーティング)のガイドラインであるGRIやIIRCも含めて、徹底的に理解し直す必要がある。

そして、自分の言葉で説明できるように「自分ごと化」し、正しい理解に立って、持続可能な社会づくりに貢献し五輪後に「レガシー」として創出し、企業としても持続的な発展と成長を目指していく。そのためにはこれら「非財務情報の統合化」が必要である。

ご参考までに、このような考えを深めることができる、筆者による講座が始まるのでご紹介したい。

笹谷の「ESG対応フォーラム」である。一般社団法人企業研究会主催。11月14日開始。事業会社の立場からESGへの対応を考える実践講座で、CSR、CSV 、ESG 、SDGs の相互関係も深めていく。ポイントは次の2点。

●「持続可能性」新時代とCSR/CSV/ESG/SDGs
●これならわかる、サステナビリティ経営の理論と実践
CSR、IR、広報、ブランディング、経営企画など幅広い業務の責任者・実務家、そして経営層も対象としている。
詳しくは企業研究会の申し込みで。 

ESGフォーラム
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笹谷 秀光(経営コンサルタント)

東京大学法学部卒。1977年農林省入省。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年~2019年4月伊藤園で、取締役、常務執行役員等を歴任。2020年4月~24年3月千葉商科大学教授。博士(政策研究)。現在、千葉商科大学客員教授。著書『Q&A SDGs経営増補改訂最新版』(日本経済新聞出版社・2019年・2022年改訂)、『競争優位を実現するSDGs経営』(中央経済社・2023年)。 笹谷秀光公式サイトー発信型三方よし 執筆記事一覧

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キーワード: #ESG#SDGs

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