私たちに身近な生物多様性(32)[坂本 優]
東京大学の本郷キャンパスには、「赤門」と呼ばれる門がある。文政10年(1827年)、当時の加賀藩主が徳川将軍家から正室を迎えるにあたり建立した朱塗りの門で、国指定の重要文化財であるとともに、東大の異称としても知られる。
その赤門をくぐったキャンパスに、インドなどを原産地とするワカケホンセイインコが生息する。ほぼ全身が緑色のインコで、50年ほど前から東京23区西南部などで野生化し、各地に広がった。大田区の東京工業大学構内に営巣していた群れは、「東京にインコの大群」などとして、これまでもさまざまなマスコミに取り上げられた。
このコラムの写真は、いずれも今年(2018年)3月に、本郷キャンパス内で撮影した赤門のインコたちだ。レンガの建物の周辺、銀杏並木、三四郎池周辺の木々など、気が付けば、キャンパス内のそこかしこに姿を見せる。
「ギャーギャー」「キエー、キエー」という大きな声で鳴くので、鳴き声をたよりに探すと比較的見つけやすい。
本郷キャンパスではレンガの建物の通気口などをねぐらにしているようだ。構内の木々の新芽や蕾などをついばむ姿も目にする。この季節、つがいで行動している個体も多い。
つがいを観察していると、体を寄せ合ったり、くちばしや足で相手の体に愛おしげに触れたり、時に微笑ましくなる位に仲睦まじく見える。
今、東京の空を舞っているワカケホンセイインコは、ペットとして輸入され、飼われていたものが、鳥かごを抜け出し、あるいは放たれるなどして野生化したインコの子孫たちだ。原産地では農業被害もあるとのことで、「害鳥」をペットとして売ることができるならば一石二鳥とばかりに、一時は盛んに輸出されたとも聞く。大きなよく響くダミ声のような鳴き声を発することから、飼い主が閉口して放して(捨てて)しまうことも少なからずあったという。
本来の生息地とは、気候も植生も生物相も全く違う東京に放り出された多くのインコは生命を落としたことだろう。しかし、何羽かは逞しく生き抜き、その子孫たちを、今、私たちは目にしている。
つまり彼らは外来生物だ。インドやスリランカに住んでいたワカケホンセイインコが、ここに定着することで、行き場所を失った在来の生きものもいることだろう。
時に駆除の対象ともされる外来生物たちだが、彼らは新たな環境のなかで生き抜いてきただけで、彼ら自身には何の罪も責任もない。しかし頑張れば頑張るほど目の敵にされてしまう外来生物とは何と切ない生きものだろうか。ましてや元々がペットとして私たちに癒しや安らぎを与えるために運ばれてきた生きものたちだと思うと切なさは増す。
ペットは最後まで責任をもって管理する、これは生命あるものをペットとする以上、鉄則だ。そのためには飼おうとする生きものの寿命は事前に必ず確認したい。
ワカケホンセイインコは数十年生きると言われる。カメやオウムも長命で知られる。決して大袈裟に言う訳ではなく、これらの生きものを飼うときは、自分自身の余命も考慮しながらどのようにして飼育を全うするかぜひ考えたい。