2011年11月に福島県いわき市で立ち上がった認定NPO法人いわき放射能市民測定室たらちねは、子どもたちと地域住民の健康を守りたいという思いから、市民による市民のための放射能測定室を運営している。2017年5月にはたらちねクリニックを開設し、「『5』のつく日。JCBで復興支援」などの支援を受けて、今年4月から子どもが無料で受けられる「子どもドック」を提供している。(オルタナ副編集長=吉田広子)
「放射能は『見えない』『におわない』『感じない』。測って数値にすることでしか、その存在を確認できません。予防原則にのっとり、不安を抱える人たちに寄り添いながら、いわきでの暮らしに向き合っています」
いわき放射能市民測定室たらちね事務局長の鈴木薫さんは、こう説明する。たらちねは、福島第一原発事故をきっかけに、いわき市内の住民が中心になって設立された。有志10人ほどで2011年5月から準備を進め、同年11月にNPOを設立。専門家や医師らの協力を得ながら、放射能測定を開始した。
当時は水や米、野菜などを中心にありとあらゆるものが連日測定室に持ち込まれ、3カ月待ちになるほどだった。以来、設備を増強し、現在は放射能測定機4台、ホールボディカウンター(全身測定)1台、トリチウムやストロンチウムなどのベータ線測定装置を備えている。いまでも月に100件ほど、土壌や食品などが地域住民から持ち込まれており、これらの測定データはすべてウェブサイトで公開されている。
2013年3月からは、放射線の影響を心配する地域の声に応え、甲状腺検診も始めた。これまでに約1万人が受診したという。
「いわきに住む人たちは、検査結果に問題がなくても、いつか影響が出るかもしれないといった不安を抱えながら生活しています。そうした不安を払拭するには、定期的な検診とそれを支援する継続的な取り組みが必要です」(鈴木さん)
■子どもに無料の人間ドックを提供
子どもたちの健康を見守り続けたいという思いから、2017年5月に測定室の隣にたらちねクリニックを併設し、内科と小児科診療を行っている。日本でNPOが医療機関を運営するのは珍しい事例だ。
「心身ともに子どもたちの健康状態をきちんと診療できる機関が必要だと考え、クリニックを開設しました。健康や生活の相談ができる場所があると、安心感にもつながります」(鈴木さん)
今年4月には子どもたちのための検診「たらちね子どもドック」を開始した。子どもたちは甲状腺検査のほか、血液検査、尿中セシウム測定、体内の放射能測定、身体検査などといった検診が無料で受けられる。
子どもドックの開始にあたっては、「『5』のつく日。JCBで復興支援」の支援金も役立てられた。「『5』のつく日。」は2月から5月までの「5日」「15日」「25日」にJCBカードを利用すると、利用1件につき1円を、JCBが自然災害からの復興活動に寄付する取り組みだ。寄付は2011年より続けられ、JCBはのべ100以上の団体に対し、累計3億8千万円を支援している。
たらちねクリニックの待合室には、たくさんの絵本や児童書が並ぶ。鈴木さんは「子どもたちが安心して過ごせる空間づくりにこだわりました。測定器の購入やクリニック開設には多くの設備投資が必要でしたが、JCBの「『5』のつく日。」をはじめ、多くの企業・団体やサポーターからの寄付のおかげで、実現することができました」と話す。
現在、たらちねの事業はほとんどが寄付収入で成り立っている。鈴木さんは「寄付は、一つの参画機会になります。寄付を通じて、こうした問題を自分事化してもらうきっかけになれば」と期待する。
鈴木さんは「市民が立ち上げた放射能測定室だからこそ、地域に寄り添い、生活実態に沿った活動ができています。蓄積された測定データをもとに、『市民科学』の力で社会や未来のために貢献していきたい。そして心と身体の健康被害をできるだけ少なくしていきたいのです」と力を込めた。