サステナブル調達掲げるマグロ仲卸、規制内容に苦言

太平洋クロマグロの国内の漁獲割り当てに批判が集まっている。那智勝浦漁港で持続可能なマグロ調達を推進してきた仲卸のヤマサ脇口水産(和歌山県那智勝浦町)の脇口光太郎社長も、サステナブルな漁法に不利な枠配分に異議を唱えている。同漁港では、マグロを主力商品とする「勝浦漁港にぎわい市場」が6月23日に開業したばかりで、規制のあり方が町の産業にも影響を与えそうだ。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)

ヤマサ脇口水産の脇口光太郎社長

水産庁はクロマグロの大型魚の沖合漁業について、2018年は大中型まき網漁業に3063.2トン、その他の農林水産大臣管理漁業に167トンの漁獲枠を割り当てた。

「その他」に入るマグロ延縄漁船が所属する一般社団法人全国近海かつお・まぐろ漁業協会は5月11日、漁期を1カ月以上残して同20日以降の水揚げ禁止を発表。間もなく枠上限に迫ったため、前倒しで16日から禁止した。

那智勝浦漁港はマグロ延縄漁船の日本有数の水揚げ港である。すでに餌を積み込んで漁場に向かっていた船も多く、急な通告に、現場は大混乱だったという。年末までクロマグロが針の餌を食うたびに逃がし、死んでいても海に捨てなければならない。

脇口社長は「規制には賛成だが、そもそも全国に1000隻ほどある一本釣りや延縄など資源にやさしい漁法に、枠全体の約5%しか割り振られないのはおかしい」と憤る。

明治30年創業の同社は、他社に先駆けて5年前に自社の「調達方針」を公表。クロマグロ(本まぐろ)についても「30キロ未満の未成魚を調達しません」「蓄養・養殖によって生産されたクロマグロを調達しません」と宣言して、持続可能な水産業をけん引してきた。

■非効率でも一匹あたりの価値を上げる

まき網の中で傷んだクロマグロの一例

那智勝浦町は、国の地方創生拠点整備交付金を受けて漁港に施設を新築し、6月23日に「勝浦漁港にぎわい市場」を開業。週末恒例だった朝市を引き継ぎ、火曜日以外は毎日営業する。運営は、町の関係者らが立ち上げた一般社団法人「那智勝浦まぐろブランド推進協会」が担う。

「延縄は1000本の針に50本かかれば大漁というぐらい非効率だが、1匹ずつ活じめするので良質で、ほとんどに高値が付く。漁獲枠の大半を占めるまき網は、低品質・低価格で大量に出回る傾向がある。暴れるマグロ数トンに押しつぶされる網の底の方のマグロは傷んでしまうし、非常にもったいない」(脇口社長)

本まぐろを安売りする大手小売の多くは消費者に漁法を伝えない。一方、同法人の理事も務める脇口社長は、日本屈指の生マグロ水揚げ高を誇る「まぐろの町」の誇りにかけて、クロマグロ1匹の価値を上げる大切さを説いている。

JR紀伊勝浦駅から徒歩10分の「勝浦漁港にぎわい市場」
chiyosetouchi

瀬戸内 千代

オルタナ編集委員、海洋ジャーナリスト。雑誌オルタナ連載「漁業トピックス」を担当。学生時代に海洋動物生態学を専攻し、出版社勤務を経て2007年からフリーランスの編集ライターとして独立。編集協力に東京都市大学環境学部編『BLUE EARTH COLLEGE-ようこそ、地球経済大学へ。』、化学同人社『「森の演出家」がつなぐ森と人』など。

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