サンゴだけではない、辺野古基地が招く生態系破壊

沖縄・辺野古の土砂投入をめぐる安倍晋三首相の発言で、にわかにサンゴが注目された。辺野古崎を囲む海で生物調査をしてきた科学者らは、「サンゴ移植の効果は極めて限定的で、多くは無意味」とし、基地建設で「ジュゴンの餌があった辺野古沖の藻場や、新種発見が相次ぐ大浦湾など、生態学的に重要な海域が大規模かつ不可逆的に壊される」と指摘している。埋め立て用の土砂を提供する自治体では、外来種の混入を懸念する声も上がる。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)

ジュゴン。写真は飼育個体で、研究者によると野生個体は体色が濃い(飼育下のジュゴンは世界に2頭で、1頭は日本の鳥羽水族館にいる飼育日数世界記録保持個体の「セレナ」である)。写真出典:PhotoAC

政府は国際サンゴ礁年(2018年)の暮れ、辺野古のサンゴ礁に土砂を投入した。事前に移植した絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ群体は約1~7センチメートルで、沖縄防衛局によると移植5カ月後の1月10日時点で、9群体のうち1群体が白化している。

辺野古沖の藻場(もば)は、海草しか食べないジュゴンの餌場の一つだった。かつて数百頭いた日本のジュゴンは乱獲や開発で減り、同局の調査では残り3頭だという。

ジュゴンは国際的な絶滅危惧種で、沖縄は分布の北限としても重要だ。しかし、コンクリート投入などが始まった2015年に1頭が姿を消し、18年秋には残り2頭の目撃例も途絶えた。うち1頭は1月8日に辺野古から離れた古宇利島で見つかった。国は工事の影響を認めていない。

海草研究者の向井宏・海の生き物を守る会代表は、「沖縄島は、相次ぐ開発で広大な藻場を次々と失って今に至る。残された辺野古沖はジュゴン個体群再生の希望をつなぐ場所だった。護岸ができて、もうジュゴンは来ないだろう」と語る。

大浦湾では5000種を超える生物が記録されている。日本生態学会は2000年から保全を訴え、14年には他学会と共に「著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19学会合同要望書」を国や沖縄県などに提出した。その湾でも19年1月28日に護岸工事が始まった。

辺野古に投入予定の土砂は2100万立法メートルで、7割以上が奄美大島や瀬戸内など県外から運ばれる。各地の住民が「辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会」を結成し、土砂移動に伴うハイイロゴケグモなど特定外来生物の拡散防止策を国に求めている。沖縄だけの問題ではない。

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瀬戸内 千代

オルタナ編集委員、海洋ジャーナリスト。雑誌オルタナ連載「漁業トピックス」を担当。学生時代に海洋動物生態学を専攻し、出版社勤務を経て2007年からフリーランスの編集ライターとして独立。編集協力に東京都市大学環境学部編『BLUE EARTH COLLEGE-ようこそ、地球経済大学へ。』、化学同人社『「森の演出家」がつなぐ森と人』など。

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