日本政府が国際捕鯨委員会(IWC)を6月に脱退することを受け、ユナイテッドピープルは21日、ドキュメンタリー映画「おクジラさま ふたつの正義の物語」の上映会を開催した。上映後には佐々木芽生監督と昨年9月のIWC会議で議長を務めた森下丈二・東京海洋大学教授が対談した。森下教授は「捕鯨再開を脱退で実現し、オブザーバーとして残ることで(価値観の押し付けに対抗する)理論の闘いに集中できる。これからが楽しみ」と語った。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)
商業捕鯨モラトリアムから約30年が経ち、反捕鯨国は資源が回復しても獲らせないという主張に転じ、持続可能な捕鯨を求める日本の交渉は失敗続きだった。
議論に参加してきた森下教授は、脱退について、「国際社会に背を向けるつもりは全くない。IWCにクジラの管理を任せるのは無理という判断。より良い枠組みを作る必要がある」と語った。
森下教授によると、1990〜2009年に海産哺乳類を消費した国は114カ国あり、うち54カ国は商業的な狩猟だった。鯨類についてはIWCが管理主体だが、持続可能な利用を図る組織としては機能不全に陥っているという。
米国在住の佐々木監督は、和歌山県の太地町が悪役として描かれた映画「ザ・コーブ」への反論が日本から届かないことに衝撃を受け、6年かけて映画「おクジラさま ふたつの正義の物語」を制作し、2017年に発表した。
同作は、反捕鯨団体と太地漁民の「ふたつの正義」を並べて観客に投げかける。トランプ政権で「分断」を経験している米国民にも好評で、8割以上がポジティブな反応だったという。
佐々木監督は、「日本でも都市で聞くと食べないから獲らなくていいと言う人が多い」と語り、商業捕鯨の持続性に疑問を呈した。森下教授は、「日本政府の方針として立ち上げれば十分に成り立つ可能性がある」と答えたが、「攻撃を受けて今は太地町でさえ需要が落ちている」として、当面は自立が難しいことにも言及した。
水産庁は、平成31年度予算で、捕鯨対策に51億円を計上している。7月以降は従来の捕鯨調査ができないが、年予算概算は30年度と同額。科学的根拠に基づく「捕獲枠の範囲内で」近海捕鯨を再開見込みと言うが、どこまで税金で支えるのか、注視が必要だ。