衛生環境が原因で失われる命を守りたい――。そんな思いからサラヤが2010年からアフリカ・ウガンダで取り組んでいるのが「100万人の手洗いプロジェクト」。手洗い習慣普及の道のりは容易ではないが、感染症対策の効果も高く、現地の雇用も絡めて、腰を据えて持続可能なビジネスに育てていく考えだ。(山口 裕史)
衛生分野のリーディングカンパニーであるサラヤの創業は、戦後の日本で蔓延した赤痢の感染対策として“手を洗うと同時に殺菌・消毒ができる”日本初の薬用石けん液を商品化したことにさかのぼる。
現在は衛生・環境・健康の3本柱で事業を展開しており、「創業60年を迎えるにあたって原点に立ち戻った時、世界では手洗いができていないことで失われる命がまだまだ多いことに問題意識を持ち、自分たちにできることはないかと考えた」。同社アフリカ開発室の森窓可副室長はウガンダプロジェクトに至った同社の思いを説明する。
2009年、日本ユニセフ協会に相談し、手洗いの普及活動先として推奨された3カ国の中から「内戦からの復興を目指す政府の前向きな姿勢が事業を後押しする」との見通しを立て、ウガンダをプロジェクト対象国に設定。サラヤの衛生対象商品の出荷額の1%をユニセフに寄付し、ウガンダで手洗いに関する教育・普及活動を行う「100万人の手洗いプロジェクト」をスタートした。
■感染症の発生率が減少
ウガンダの5歳未満児死亡率は1千人中53人(2016年)で日本の20倍弱。その半数は正しい手洗いで予防できる。そこでプロジェクトでは、手洗いの大切さを伝えると共に簡易手洗い設備の普及も推進している。
また劣悪な環境にある医療施設において患者に触れる医療従事者が媒介になって感染するケースが多いことにも着目。2011年に現地法人サラヤ・イーストアフリカを設立し、翌12年には感染症を防ぐアルコール手指消毒剤を医療機関に広げる「病院で手の消毒100%プロジェクト」を開始した。
「プロジェクト開始から半年で消毒順守率が70%まで上がり、それまで毎月2─10件生じていた2大感染症である帝王切開後の敗血症、乳児の下痢性疾患がともにゼロになる月が増えた」(森副室長)
プロジェクトの進行に合わせ、薬剤を現地で購入しやすい価格として普及させること、合わせて現地に雇用を生み出すことを目的に2014年にはインド系製糖会社の協力を得て、製造工場を設立。製糖過程で出る廃糖蜜からエタノールを精製し、本来廃棄されるものを製品化し、有効活用することに成功した。
■サラヤが消毒の代名詞に
しかしビジネスの開始当初は、国の財政が厳しいこともあり苦戦。公立病院向けの消毒液普及事業を落札できたのは工場稼働から2年後の2016年のことだ。
これを補うべく重点的に営業した私立病院は全体の8割で採用され、2018年は3倍を超える売り上げとなった。
森副室長は、「現地の医療従事者がアルコール消毒剤のことを『サラヤ』と呼んでいたことに感激した。サラヤブランドが認知されつつあることが最大の成果」と手応えを感じている。
更家悠介社長自ら陣頭指揮を執ってウガンダに足を運び、会社、工場の新設を即断する姿勢がウガンダ政府からの信頼獲得につながっている。
「社長からウガンダの事業について収支はトントンでいいと言われているが、国内事業の利益を投入している以上早く自立させたい」というのが森副室長の本音だ。日本の戦後復興と共に「手洗い」による感染予防を広げてきたサラヤ。その長年培った経験と技術を用いて、ウガンダに手洗い習慣と衛生ビジネスを定着させ、社会課題を解決する取り組みをこれからも継続していく。