福島原発被害訴訟の原告である森松明希子さん(45)と、鴨下美和さん(48)が、春休みに子どもたちを連れて欧州6カ国で「原発事故による被ばくと人権侵害」について訴えた。避難指示区域外から自力で避難中の母子たちの講演会や学校訪問は、欧州各地の日本人が中心になって企画した。ドイツのアーヘン市で開催された講演会およびギムナジウム(小5から高3まで一貫の進学系公立校)での特別授業の模様を報告する。(独アーヘン=川崎陽子)
隣国の老朽原発に脅かされているアーヘン市
アーヘン市での講演は、ドイツ緑の党および、核兵器と原発の廃止を目指す在独日本人グループが共催した。日曜日の夜にもかかわらず、緑の党の事務所は60名の参加者で満席になり、子ども連れの家族もいた。
森松さん母子は、東電福島第一原発から約60km離れた郡山市、鴨下さん母子はもっと近いいわき市から、子どもたちを被ばくから守るために自力で避難している。隣国ベルギーの老朽原発から60km余りしか離れていないアーヘン市の人々にとって、他人事ではない。ベルギーの原発では圧力容器に数千のひびが見つかっており、アーヘン市だけでなくルクセンブルクなど周辺各国の多数の自治体も、廃炉を求めて訴訟中だからだ。
鴨下さんは、「避難指示が出なかった郡山やいわきなどの大都市は、政府が発表した放射能汚染の測定範囲から外れておりデータがない」と説明した。いわき市の自宅の放射線量は高く、とても帰還できる状況ではない。しかし、避難区域外からの避難者に関して「賠償金目当てで逃げたずるい人」などの誤った認識が広まった。鴨下さんの息子は、死にたいと思ったこともあるほど学校でいじめられた。転校後は、いじめられないために避難者であることを隠し、自分の意見も言えなかった。
森松さんは、「原発事故の一次被害は放射能による被害だが、二次被害は言論の自由が奪われること。大人社会の鏡のような子ども社会のいじめが、それを証明している」と、自力避難者の基本的人権が侵害されていることを強調した。
聴衆からは、日本の電力事情、特に原発再稼働や核廃棄物、自然エネルギーの比率などに関する質問が多数出た。
8歳の娘が欧州で初めてスピーチ
原発震災当時は生後5ヶ月だった森松さんの娘、明愛(めいあ)さん(8)はこの日、欧州で初めて手記を朗読し、拍手喝采を浴びた。「お母さんとお兄ちゃんと大阪に避難し、お父さんは福島の患者さんのために、医者として福島に住み続けています。このように、親子がばらばらに暮らさないといけなくなるのは、すべて放射能のせいです。原発事故が起きて放射能が東日本に散らばり空気を汚して、その空気が海や地面を汚してしまいました。放射能は身体に悪い物質です。だから、みんなで避難しています。(中略)今日は、集まって話を聞いてくれてありがとうございました」。
講演後、ドイツ人の男性が森松さんに、郡山で診療を続ける夫の健康状態を気遣う質問をしていた。