カルビー社長退任後、NPO法人「日本で最も美しい村連合」を立ち上げた故・松尾雅彦氏は、農村自給圏構想「スマート・テロワール」を提唱した。松尾氏は日本の食糧問題・農業問題への危機感から、地域資源を持続的に活用し、農村を元気にしようと同構想を提唱し、自らも国内外の農村に足を運び続けた。スマート・テロワールが目指すものとは何か。2017年に発表された松尾氏の提言を紹介する。(文・松尾雅彦、構成・浅川芳裕)
スマート・テロワール、それは一言でいえば「地方都市を含む広域の農村自給圏」構想である。海には魚や貝などの水産資源があり、平地には水田、台地には畑地があり、高地には牛や豚などの畜産資源があり、いずれも太陽エネルギーによって育まれている。
これらの資源を持続的に活用して、食料のサステナビリティ(持続可能性)を実現し、農村を元気にしようというのがスマート・テロワールの目指すところである。そのために田畑輪換を畑作輪作へ転換し、地域に女性の職場の食品加工場をつくり、住民の地元愛で地元産の食品を創り出するといった課題への取り組みを農業・加工業・流通業と自治体の有志が一体となって進めようとするものである。
このような構想を立ち上げた理由は、日本の食糧問題・農業問題への危機感からである。日本は1960年の安保改定時に食料自給を犠牲にして、工業化政策を優先する「加工貿易立国」に舵を切った。ところが、これによって食料自給と農村政策の議論がひねくれていき、自給率の降下が止まらず、いまでは自給率38%という実態を甘受することになった。