前回のコラムで「視覚に障害のある方が出会う困難さの原因」をお伝えしました。今回は障害のある人が遭遇する、社会生活上の不利や困難の原因は、社会の多数派である障害のない人にとって使いやすい社会が作られていることによる、社会の偏りにあるという「障害の社会モデル」の視点から、聴覚に障害のある人が街中で遭遇する障壁について、考えていきます。(公益財団法人日本ケアフィット共育機構・サービス介助士インストラクター=冨樫正義)
■実は多い「音」だけの案内
多数派である健聴者(聴覚に障害のない人)にとっては当たり前の音や声のみによる情報提供やコミュニケーション方法が、聴覚に障害がある人にとっては情報の不足に繋がっていることが多々あります。
この点につき、聴覚に障害があるから、情報が届かないという考えではなく、音や声でのコミュニケーションが中心となっている社会の仕組みにより、聴覚に障害のある人に情報が届かないとの視点で見ていくと、例えば金融機関や病院での待合室での呼び出しは声での情報が中心であることで、聴覚に障害のある人にとっては、自分の順番が分かりにくいことになります。
最近はモニターでの番号表示も増えて来ましたが、モニターが小さかったり、設置位置が待合席の正面ではなく、横に設置されていたり、分かりにくいことがあります。
また、キャッシュカードの紛失などの緊急時対応では、ほとんどが窓口対応か電話での問い合わせが必要であり、電話でのコミュニケーションが難しい人にとっては、不便となっています。
駅の構内や電車内のアナウンスも声による情報提供がほとんどであり、掲示板やモニターで視覚情報があったとしても声での情報に比べると、情報量が不足していたり、最新の情報ではなかったりすることがあります。
これまでは、災害時の行政からの情報も音声によることがほとんどであり、過去の災害においても聴覚に障害があることで、避難のタイミングが遅れてしまうということがありました。
■「手話フォン」で情報格差をなくす
一方で少しずつ、この社会の偏りを是正するように、従来は音声だけであったものに、視覚情報を追加しているサービスが増えてきています。
例えば、聴覚に障害のある人が健聴者と電話連絡をしたいとき、両者のコミュニケーションをサービスセンターのオペレーターがテレビ電話やインターネットなどを使って手話や文字を使用して仲介する「手話フォン」や「電話リレーサービス」があります。
行政や航空会社等の窓口ではタブレット等を使用して遠隔での手話通訳を行っているところもあります。
災害情報の提供については、行政によってはメールにて情報配信する「防災情報メールサービス」を実施しているところもあります。
映画では邦画にも日本語字幕をつけるユニバーサル上映をしている映画館も増えてきました。
羽田空港国際線旅客ターミナルビルでは、トイレの個室に緊急時の音声情報に加え天井に設置されてフラッシュライトが点滅することで、聴覚に障害のある人に視覚による緊急情報を伝えたり、エレベーター内に液晶モニターと「聴覚ボタン」を設置したり、緊急時に筆談や手話でコミュニケーションをとれるようにしています。
このような仕組みを増やしていくためにも、障害のある人が抱えている生活の不便さは個人が抱えている障害だけが原因ではなく、少数派の存在を想像せずに作られた社会の仕組みや変化によっても生じていることを理解し、障害のある人の社会参加を妨げている障壁を取り除くことは、社会の責務でもあると考える必要があります。
※「サービス介助士」とは、主にサービス現場で障害のある人や高齢な人などが、何かお手伝いが必要な際に、さっとお手伝いができるように、基本的な介助技術を学んだ人です。誰でも取得することが出来ます。