緊急連載「石灰石ペーパー類」は本当にエコか(下)

「石灰石ペーパー類」は本当にエコか(上)
「石灰石ペーパー類」は本当にエコか(中)

そもそも石灰石ペーパー類を使用することが環境負荷の低減につながるのだろうか。日本では3R(リデュース、リユース、リサイクル)のうち、ことさらリサイクルに重きを置く傾向がある。だが実態は、多くのプラスチック製品が焼却処分されている。石灰石の採掘現場でも環境破壊が続く。(オルタナ編集委員・栗岡理子)

■環境NGOからも批判の声 

環境団体の目も厳しい。国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京・新宿)は、使い捨てのプラスチック代替品が世の中に急速に広まっていることに強い危機感を持つ。

「いま最も優先されるべきは、まずリデュース(削減)・リユース(再利用)・リフィル(詰め替え)だが、リサイクルや新素材、技術のみが必要以上に大きく取り扱われると、真の問題解決から遠ざかってしまう危険性がある」

「リサイクルなどの技術が大事なのは言うまでもないが、『リサイクル可能』であることや『技術が存在する』ことが、『実際にリサイクルされること』や『社会システムに取り入れられ広まっていくこと』と必ずしもイコールとはならない」

「まずは使い捨てそのものを減らし、リユースやリフィルを土台にしたビジネスモデルの導入と街づくりを積極的に目指していくべき。代替品に関しても、実際の回収や処理方法を確立させた上で進めなければいけない」(大舘弘昌・プラスチック問題プロジェクトリーダー)とグリーンピース・ジャパンはLIMEX製品の広がりを警戒する。

■絶滅危惧種の自生地も爆破

「石灰石は日本で100%自給している鉱物」「世界中にほぼ無尽蔵に存在」などといわれると、石灰石ならば安心して使えそうな気がする。しかし、実際の採掘現場は自然破壊に直結しているのが現状だ。

「LIMEXの原料である石灰石は東北地方で採取している」(TBMコーポレート・コミュニケーション本部の菊田譲コミュニケーション・ディレクター担当)という。

石灰石鉱業協会のウェブサイトによると、日本では現在約250の石灰石鉱山が稼動している。

生産量を県別に見ると、大分県が最も多く全国生産量の19%を占めており、2位以下は山口県(11%)、高知県(11%)、福岡県(10%)と続く(資源エネルギー庁鉱業課資料)。

「採掘方法としてはほとんどの鉱山で露天採掘での『ベンチカット採掘法』が採用されています。ベンチカット採掘法はまず、穿孔機で発破孔を穿孔し、発破によって岩盤を起砕します。発破により起砕された石灰石は、ホイールローダや油圧ショベルによってダンプトラックに積みこまれ立坑まで運搬されます」

日本消費者連盟の大野和興共同代表は20年前から埼玉県秩父地方で毎日武甲山を眺めながら暮らす。大野代表は、「この20年だけを見ても武甲山の変貌はすさまじい」と語る。

秩父郡横瀬町から望む武甲山(提供:大野和興代表)

「石灰の残量は少なくなったといわれながら、採掘は続いており、頂上も次第に低くなっています。1336メートルあった標高は現在、1304メートルになりました。石灰岩特有の希少な植生があるのですが、絶滅危惧植物『チチブイワザクラ』や『武甲ミヤマスカシユリ』の自生地は今も爆破され続けています」

大野代表は次のようにも話した。「その一方で、採掘を続けている鉱業会社の労働組合や市民ボランティアによる植林も少しずつですが行われています。しかし、破壊に追いつかず、近年はせっかく育った苗木が鹿に食べられてしまうということもあって、緑の再生は程遠い状況にあります」。

武甲山は、北側斜面が良質な石灰岩であるため大正時代から採掘が進んだ山だ。特に山の形が変わるほど採掘量が増えたのは1970年代以降だといわれている。高度経済成長により、セメントの需要が急増したためだと思われる。

■破壊が進む神の山、石灰石を使うということ

秩父を訪れ、知らずに武甲山を眺めた人も、大きく削られた山肌に驚く。小口恵美香さんもそんな人の一人だ。かつて養蚕が盛んだった秩父に、衣の歴史を学びに他県から訪れたところ、たまたま目にした武甲山の異様さに衝撃を受けた。

小口さんは「これだけ削り取られていると、泥水が流出したり、河川の形状なども変化していそう」と心配する。

筆者の一人、栗岡も、想像を超えた武甲山の姿に言葉を失った。これが奥武蔵の名峰と称えられ、山岳信仰の象徴であった山だろうか。武甲山は、深田クラブ選定の「日本二百名山」にも数えられている。

採掘した石灰石が、生活に必要な建造物や、長期に渡って使用できる必需品を作るために使われるのであれば、やむを得ないかもしれない。

しかし、それがもし使い捨ての容器包装や無料で配布される販促品などに使われるのであれば、そのもったいなさに辛くなる。

元の形を知りたいと山麓の武甲山資料館に入ると、1960年頃の武甲山の写真が展示されていた。既に削られている部分はあるが、威厳に満ちた美しい佇まいだ。

同館のパンフレットによると、武甲山は「神奈備山」(かんなびやま、「神様のこもる山」の意)として山麓の人々に崇められ、自然科学から見ても、地質、動物、植物など他に類を見ない貴重な存在だった。

しかし、北面および頂上の石灰岩採掘によって、山容は変貌し、自然科学としての価値も消失するため、当時の武甲山の全貌を後世に伝えるために、資料館を設立したとのことである。

資料館には、緑化しながら採掘を進めているとあるが、石灰岩ならではの植生や水源涵養機能などが元に戻ることはない。

採掘現場を眺めると、国産原料だからといって無闇に使ってよいわけではないことがよくわかる。

■石灰石は石油と同じ枯渇性資源

石灰岩の成因には生物起源と化学的沈殿の2種類がある。生物起源とは大昔、サンゴや貝などの海の生き物の遺体が堆積し、長い時間をかけて石となったものだ。

石油や石炭と同様に限りある資源なのだ。資源の観点で考えると、LIMEXが本当に回収され、元と同じような製品にリサイクルされるなら、石灰石は無駄にならないのかもしれない。

しかし、もし石灰石ペーパー類のリサイクルルートが確立されないのであれば、資源の無駄遣いになるし、さらには既存の紙やプラスチックのリサイクルルートを妨害する。

また、もし市中に出回り、自治体の可燃ごみに出された場合は、石灰石は焼却灰を増やし、最終処分場の寿命を縮めることにもつながる。そのため、回収できなくなるような使われ方は考えものだ。まして使い捨てられるような製品は問題外だろう。

LIMEXを採用する企業や自治体は、使い捨て製品や回収不能になるような製品を作らないこと、そして使用済み製品をTBM社とともにしっかり回収し、リサイクルルートに乗せることに注力してほしい。それが新素材を普及させようとする際に、果たすべき最低限の責任だ。

「石灰石ペーパー類」の環境負荷は本当にエコか(上)
「石灰石ペーパー類」の環境負荷は本当にエコか(中)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード: #リサイクル
  1. みみぴ
    2021/09/23 10:52

    今日、秩父に行ったばかりです。そして武甲山を眺め、その痛々しいといいますか、とんでもなく削られている姿に不安感を抱き、検索をかけてこちらにたどり着きました。
    ワタシは信心深くありませんが、神が怒らないのだろうかと思うほどの山の姿でした。

  2. 吉松幸美
    2021/04/07 5:02

    とても勉強になりました。最近プラスチックの海洋汚染のニュースから代替材に興味をもったのですが、代替材でも安易に良い物だと信じてしまうと、こんなに色々な問題があるのですね。私の住む岐阜県大垣市にも金生山という採掘されまくっている山があります。山の形はイビツになり、ひどい自然破壊だ…と悲しい思いで見ていました。オルタナの記事は私のような環境問題にあまり詳しくない者でもとても分かりやすく理解しやすいです。もっと沢山の人に知ってもらいたいです。

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