一方、英国の政治の中枢はテムズ川からほど近い、低地にある。前述のウェストミンスター宮殿は英国議会の建物であり、上述の「水没可能地域」にはダウニング街10番地(首相官邸)も含まれている(下記の英国環境庁作成によるシミュレーション図参照)。
まさにロンドンの主要地域が水没する危機に瀕しているのだ。これはニューヨークや東京の状況より数段深刻であろう。その気候危機の脅威を目の当たりにし、ジョンソン首相は本能的に「気候危機に対する緊急アクション」の必要性を感じ取ったに違いない。
英国は今年11月、スコットランド南西部グラスゴーで開かれる「国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議」(COP26)の議長国を務める。
「2050年排出実質ゼロ(カーボンゼロ)の目標に向けた今年の英国の計画を明らかにするともに、諸外国に排出実質ゼロを英国とともに公約するよう求める」とした。その諸外国には当然、盟友米国も入っているほか、中国の環境対策も支援していくことをジョンソン首相は表明した。
EUから離脱して、今後は改めて「世界でのルールメイキング」でいかに主導権を握れるかが英国経済のカギを握っているともいえる。だた、改めて強調しておきたいのは、そんな国家的野心よりも、気候危機に対する心からの怖れがジョンソン首相を動かしているように見えることだ。