石灰石ペーパーLIMEXが「容リ法ただ乗り」の疑い

石灰石ペーパーの一種「LIMEX」(ライメックス)を使った一部のレジ袋について、プラスチックが最大成分で、石灰石成分(炭酸カルシウム)を上回ることが分かった。製造元のTBM社(東京・中央、山﨑敦義社長)は買い物袋や容器としてLIMEXを企業に売り込む時に「石灰石が50%以上なので、容器包装リサイクル法によるリサイクル委託金を払わなくてよい」と説明するが、プラが最大成分なら委託金は必要だ。委託金を不当に免れる「容リ法ただ乗り」だとして、専門家からは「容リ法の枠組みも揺るがしかねない悪質な行為」という批判も出てきた。(オルタナ編集部)

LIMEX製レジ袋の石灰石含有量は41%

LIMEXは石灰石とプラスチック(ポリマー)などから成る、いわゆる「石灰石ペーパー」の一種だ。TBM社が2014年に国内特許を取得し、販売を始めた。「普通紙のように木を切らず、水も使わないので環境にやさしい」との触れ込みで業績を伸ばし、「国内スタートアップ想定時価総額ランキング」(2019年11月現在)で、想定時価総額は1218億円と2位に付けた。

TBM社は、同社のウェブサイトや営業活動で、「LIMEXは石灰石成分(炭酸カルシウム)を50%以上含むので、レジ袋など容器包装類にLIMEXを使えば、通常プラ製品に掛かる負担金が発生しない。これによりコストも下がる」と販売先の企業ユーザーに説明している。


同社のウェブサイトには「LIMEX由来の容器はリサイクル法に基づくリサイクル委託金の供出義務がなく、さらなるコスト削減を可能にします」との記載がある(編集部注:本記事が掲載された4月10日にこの記載を削除)。

ところが、オルタナ編集部が国内の検査機関に、アパレルブランド「SPINNS」が全国で配布する買い物袋(LIMEX製品)の成分分析を依頼したところ、「プラスチック(ポリマー)が48.6%、炭酸カルシウムが41.1%」(いずれも重量%)だったことが明らかになった。

アパレルブランド「SPINNS」が全国で配布する買い物袋(LIMEX製品)

もし石灰石が最大成分であれば、たとえ他の部分が全てプラスチックであろうと、容リ法上のリサイクル委託金は合法的に免除され、一切支払わずに済む。しかし、実際には石灰石よりプラスチックの方が多かった。

「容リ法のシステムの根幹を揺るがしかねない」

LIMEX製レジ袋の最大成分がプラスチックであれば、製造したTBM社はもちろん、レジ袋を利用する小売店も、プラスチック100%の包装と同額のリサイクル委託金を支払うか、または独自に90%程度は回収しなければならない。もし、その義務を果たさない場合、容リ法違反として最大100万円の罰金が課され、時効はない。

TBM社のウェブサイトには「LIMEX製品の成分には、ばらつきがあります」との表記もあるが、「50%以上」と「41%」では、ばらつきという解釈は成立しない。

オルタナは9日から、TBM社に連絡を取っているが、まだ返事はない。SPINNSを運営するヒューマンフォーラム(京都市、岩崎仁志社長)の広報担当者からは「LIMEXのレジ袋を使っているのは事実。いずれ正式にお答えする」と回答があった。

経済産業省や環境省など主務官庁も「容リ法ただ乗り」に対して重大な関心を持っている。経済産業省産業技術環境局資源循環経済課の末藤尚希課長補佐は「容リ法ただ乗りが事実なら、法に則り、しっかり事実関係を把握して、経産省としても対応していきたい」と話した。

細田衛士・中部大学経営情報学部教授の話 今回の分析が事実なら、TBMには説明責任があり、全商品を調べる必要が出てくるだろう。「容リ法ただ乗り」は、正直に払っている人にとって不公平であるばかりではなく、容リ法のシステム全体に対する不信感につながり、システムの根幹を揺るがしかねない。著名な企業であればなおさら、システムが疑わしいものになってしまう。製造者も、採用した事業者も「知りませんでした」では済まされない。

すべての容器包装向けLIMEX製品について検証を

石灰石ペーパー類については、オルタナ編集部は2019年11月から緊急連載(下記のリンク参照)で報じたほか、オルタナ本誌59号(2019年12月発売)でも特集した。

その要旨は下記の通り。
1)石灰石(炭酸カルシウム、CaCO3)は焼却すると大量の二酸化炭素(CO2)が出るため、石灰石とプラ成分の複合材料である石灰石ペーパーを焼却すると、普通紙以上の環境負荷がでる(紙は植物由来なので、カーボンニュートラル)。
2)紙代替のLIMEXは一般の人には「普通紙」と誤認され、間違えて古紙回収に出されてしまう可能性が高い。再生紙製造のプラントを痛める恐れもある。
3)石灰石は国内でも240万トンもの埋蔵量があり、「地球上にほぼ無尽蔵にある」(TBM社ウェブサイト)というが、石灰石も有限の資源である。石灰石採掘に伴う生態系への影響や、環境的・社会的な影響は少なくない。
4)適切なリサイクルがされない場合、石灰石ペーパーのうちプラ成分は早晩、環境中に拡散する。「石灰石ペーパーが海洋プラスチックごみ問題を解決する」と考えるのは早計

上記の連載は、いずれも「LIMEXは石灰石成分が50%以上の複合材料である」という前提の下で執筆したが、その前提が今回、大きく変わった。プラスチックが最大成分で、石灰石成分(炭酸カルシウム)を上回るにも関わらず、「石灰石成分が最大」だとして、企業ユーザーに売り込んでいたとしたら、たとえ「知らなかった」としても、法的・倫理的な責任は免れない。さらに、企業ユーザーにとっても、知らないうちに違法行為に加担させられることになる。

TBM社はサステナビリティやSDGs(持続可能な開発目標)を前面に掲げて、販促活動を行っている。今回の成分検査は「SPINNS」のレジ袋1点だけだが、1点でも不正な含有量が検知されたのであれば、TBM社は今後、すべての容器包装向けLIMEX製品について、第三者の検証を受け、その結果を公表すべきだろう。

日本でもSDGsが浸透するに連れて、SDGsをビジネスの軸に据えて事業を行う事例が増えてきた。それ自体は良いことだが、外部から問題を指摘された場合には真摯に対応し、説明責任を果たさないと、「SDGsウォッシュ」の誹りを免れない。

そもそも、一つのアイテムだけで環境課題を解決する「夢の製品」を生み出すのは難しい。ユーザーは企業の「うたい文句」を妄信せず、冷静に判断する消費行動が望ましい。もちろん、環境・社会的に何の対応もしていない企業よりは遥かにましだが、どんな製品にもメリットとデメリットがあることを知るべきだろう。

▼この記事に関する問い合わせは、オルタナ編集部(info(a)alterna.co.jp)まで。
※(a)は@に変えてご送信ください

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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