猛烈な勢いで新型コロナウイルスの感染が拡大した欧州。被害の大きな国々では、高齢者の介護ホームなどで集団感染があったことが知られている。だが、ハイリスクという意味では、コミュニケーション上の障がいを持つ人々や現地の言語をうまく操れない難民・移民も同じだ。感染による緊急事態の意味や、行動制限の内容がうまく伝わらなければ、集団感染を招きかねないからだ。欧州では、どのような努力がなされているのだろうか。(ブリュッセル=栗田路子)
■誰も取り残さない情報発信を
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困難のある人も、差別なく同じように守られる権利は、「国連の障がい者の権利に関する条約(CRPD)」によって、2008年以来、国際法上は、世界のほとんどの国で擁護されている。
国連の優等生とされる欧州連合では、EUの「基本権憲章」や「欧州アクセシビリティ指令」などで、今回のような緊急時も「あらゆる障がいを持つ人も健常者と同等の情報を得る権利」が守られている。
だが、障がい者権利擁護団体EDFのハコビアンさんは「現実にはまだ課題がある」という。
例えば、「視聴覚メディアサービス指令」というEU法の中で、「公共の連絡や宣言を含むすべての緊急情報は、視聴覚障がいを持つ人々に伝わる方法で提供されなければならない」と定められている。加盟国間に多少の差はあっても、手話通訳や字幕スーパー付きが普及している。
今回の新型コロナウイルスでは、3月19日、EDFから加盟国首脳へ、障がい者への情報周知を徹底するよう改めて公開要望書が送られたこともあって、各国とも努力されているようだ。
一方、知的障がいを持つ人々へのコミュニケーションとなると、障がいの程度や種類が幅広く、標準化された方法論はない。知的障がい者の欧州擁護団体Inclusion Europeのシュヴェレッパさんはこう語る。
「今回のパンデミックでは、健常な人々でさえ、毎日の生活リズム、見通し、働き方の突然な変更を余儀なくされたが、知的障がい者はこうしたルーチンの変化に弱い。外出禁止やソーシャル・ディスタンスは、『見捨てられている』『罰されている』と感じてしまいがちだ」
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ホームページやSNSを積極的に用いてガイドラインを発信し、各国の優れた例から学べるように努めている。その柱は、難しい言葉を用いず、絵や写真を多用して、明瞭に示すことだ。
中でも注目したいのが、フランスのSantéBDというNGOが開発するツール。これまでも様々な知的障がい者のための医療コミュニケーション・ツールを用意し、今回は、急きょ新型コロナ専用ツールを開発。どんな行動をしてはいけないのか、手洗いや咳エチケットなどを分かりやすい図解で知らせている。
■著名人が移民・難民向けに16言語で啓発