複数の環境NGOは5月25日、ブンアン2石炭火力発電事業の中止を求める要請書を、日本の官民に提出しました。要請書は、世界40以上の国・地域の127団体が賛同しています。提出先にはプロジェクトへの融資を検討している国際協力銀行(JBIC)や3メガバンク、出資者である三菱商事、また内閣総理大臣も含まれます。
新規石炭火力発電所の建設は気候変動を加速させるだけでなく、現地に大気汚染などの環境汚染をもたらします。すでに事業予定地では、既存の工場や発電所に起因する環境汚染や健康被害が報告されています。
国際環境NGO FoE Japanの深草亜悠美は「ブンアン2は日本で建設されている発電所に比べ大気汚染物質の排出濃度が数倍高いことがわかっています。事業者が作成した環境影響評価(ESIA)報告書に様々な問題点があることもEnvironmental Law Alliance Worldwide (世界法律家連盟、ELAW)による分析調査で指摘されています。影響住民の適切な参加・協議が確保されていない、石炭にかわる代替案が検討されていない等の点は、JBICや日本貿易保険(NEXI)が有する環境社会配慮ガイドラインや世銀グループの国際金融公社(IFC)パフォーマンススタンダードの違反にあたり、日本の民間銀行が採択している赤道原則にも違反しています」とコメントしました。
気候ネットワークの国際ディレクターおよびClimate Action Network Japanの代表である平田仁子氏は「ブンアン2のプロジェクトは、日本が官民ともに石炭火力発電事業になお固執し続けていることを象徴する悪しき事業です。プロジェクトに関わる民間銀行や事業者は、新規石炭火力事業からは撤退する方針を掲げながらも、本案件を進めており、矛盾を極めています。気候変動へ向き合い、かつベトナムの人々の持続可能なクリーンエネルギーへの転換を支援するために、本事業の実施を見過ごすことがあってはなりません」とコメントしています。
The Asian Peoples’ Movement on Debt and Development (APMDD)やDemand Climate Justice (DCJ)のコーディネーターを務めるリディ・ナクピル氏は途上国における日本の海外支援について「大型サイクロン・アンファンがベンガル湾を襲い、バングラデシュやインドの多くのコミュニティが生計手段や家屋を失った他、命までも落としています。これは、途上国の貧困層が気候危機の中でどのような影響を受けるのかを如実に示しています。石炭への支援はさらなる困難と危機しかもたらしません。日本は石炭支援をやめ、再エネや公平性の担保された気候変動対策を支援すべきです」と指摘しました。
化石燃料に対する政府の補助金について調査し提言を行なっている米国のNGO、Oil Change Internationalのブロンウェン・タッカー氏は「我々の調査によると、パリ協定以降、日本政府は再エネに比べ化石燃料に対し7倍もの補助金を投入しています。日本政府も新型肺炎からの回復策に巨額の公的資金を投じていると思いますが、公的資金は、化石燃料からの脱却や、レジリエントで再エネ中心の社会への移行に振り向けられるべきです。さらに日本政府は石炭火力発電の輸出に関し、公的支援の要件見直しを行っていますが、単に厳格化するのではなく、石炭火力発電所や関連施設への支援をやめるべきです」とコメントしています。
世界的な気候変動に関するダイベストメント運動をすすめる国際環境NGO 350.org 日本支部の渡辺瑛莉は「ブンアン2に融資を検討中の民間銀行4行は各それぞれ石炭火力発電所向けの融資を原則行わないポリシーを採用しています。これらのポリシーには重大な抜け穴が含まれており、ブンアン2は例外扱いされる可能性が高いと言われています。しかし、パリ協定の1.5度目標を達成し、壊滅的な気候崩壊を免れるためには、銀行が自ら掲げるポリシーの例外を安易に適用すべきではありません。また、国連責任銀行原則への署名金融機関として、パリ協定との整合性の確保に責任を果たし、座礁資産化のリスクを回避するためにも、早期に石炭火力から完全にフェーズアウトすべきです」と述べました。