日本国内外では2000年代からミツバチなどの群れが大量死する「蜂群崩壊症候群」(CCD)が問題視され始めた。その原因の一つとして、依然としてネオニコチノイド農薬が疑われている。私は金沢大学教授時代の2009年から石川県やハワイ島などで長期の野外実験を6回にわたって実施した。実験の総日数が1400日を超える現時点でも結論には至っていないが、野外実験を通じて、ネオニコの特異な特性(長期残効性、高殺虫性)がCCDを引き起こす原因であると推定した。(金沢大学名誉教授・学術博士、山田敏郎)
6回の実験によって、①ネオニコ含有食物(花粉、ハチミツ)によって蜂群への影響が異なること②有機リン系農薬よりもネオニコの方が蜂群を滅亡させやすいこと③越冬中、ハチミツ中の有機リンは分解してしまうが、ネオニコは残留することーーが明らかになった。また、蜂群の見かけの寿命を推定する数学モデルを提案し、このモデルを用いて、長期野外実験を見かけの寿命の観点から解析した。
2009年からミツバチの野外実験
ネオニコチノイド系農薬(以下、ネオニコ)は20世紀末に発明され、「夢の農薬」とも称された。しかしミツバチへの悪影響が疑われ始め、21世紀初頭の大規模なミツバチのなぞの失踪(CCD)の主な原因の一つに挙げられた。
ネオニコのミツバチへの悪影響を皮切りに、実験室レベルであるが、様々な非標的動物への影響が科学者らによって調べられ、その悪影響が確認された。
しかし、農薬製造・販売会社やネオニコ支持派の科学者・政治家らは「これらの科学者によるネオニコの非標的動物(特にミツバチ)に及ぼす結果は、実験室レベルであり、問題が発生している野外での状況を再現しておらず、研究結果は疑わしい」と反論した。
野外実験は、環境条件を始めとする実験条件をコントロールすることのできる実験室レベルの実験に比べて、格段に難しため、野外実験での研究は極めて少なかった。趣味として2002年からミツバチを飼い始めていた私は、CCDに興味を持ち始めており、その原因を調査し始めていた。
そこで、CCD解明には野外実験が不可欠あるとことを知った私は、約22年間企業でモノづくりの研究をし、その後、大学に移ってからも、製造技術開発の研究を継続していた経験から、製品を完成させる難しさを痛感するとともに、野外研究と製造技術開発と相通じるところがあると感じていた。
すなわち、個々の特性を正確に把握しても、製品を作ることが困難であり、様々な状況や条件を総合的に考慮する必要があるという点で、野外実験と似通っており、これまでの経験を生かせば、専門外の私でも研究ができるのではないかと判断した。
研究結果を発表すると、研究結果をトレースすることなく、素人の研究結果というレッテルを張り、頭から批判する人たちがいた。が、私は、数多くの製品(商品)開発に携わったという経験から行った実験であり、昆虫学ではズブの素人であるが、野外実験の方法や精度は、実験室レベルの研究しか経験のない科学者に劣っていないと自負していた。
このような理由から2009年からミツバチの長期野外実験を10年以上行ってきた。これらの研究結果より、ネオニコ(フィプロニル等の浸透性農薬も含む)は、ミツバチの大量死や越冬の失敗に深くかかわっており、その特性(長期残効性、高殺虫性、浸透性、神経毒性)は、農作業量の軽減の代償として、極めて深刻な地球環境への負の遺産を残すことが懸念される。
次回から、これまで行ってきた6回の長期野外実験から得られた研究成果のうち論文発表済みの研究成果[1-7]の要約を中心に紹介する(詳細は原文を参照のこと)。