「ネオニコ問題は決して解決していない」⑤

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【蜂群の見かけの寿命の推定:数学モデルの提案】[6]
我々は長期野外実験において、できるだけ正確に、しかも後日検証可能な方法で成蜂数や蜂児数を測定してきた。

この測定データだけを用いて、真社会性昆虫であるミツバチのライフサイクルを考慮に入れることにより、蜂群の見かけの寿命(各時点で蜂群の中で最も寿命の長いグループの日齢)を推測する数学モデルを提案した。

当然のことであるが、成蜂数や蜂児数だけを用いていることから、見かけの寿命の推定精度はこれらの測定精度に依存するので、高精度の実験データが必要となる。この数学モデルは、ライフサイクルが分かっているミツバチ以外の真社会性昆虫の見かけの寿命も推定可能である。

本研究では、この数学モデルを用いて、これまで行ってきた長期野外実験から無農薬群(コントロール群)だけを選び出し、見かけの寿命の四季変化を推定した。この結果から、見かけの寿命は、まだ冬の気配のない9月後半から長くなり始め、10月後半から急に長くなり越冬中も寿命が長くなる状態が4月後半まで続き、最大通常の季節の約10倍になり、越冬後、通常の日齢まで急降下することが分かった。

このような見かけの寿命の急激な変化を従来言われていた種々の情報説(採餌活動や保母活動等の労働負荷説、食料説など)だけでは説明できないとし、季節変化等の環境の変化を検知して寿命の変化を引き起こす情報が遺伝子的に組み込まれているのではないかという仮説を提案している。

この数学モデルを用いれば、様々な環境要因(例えば、農薬の暴露や気候の相違など)による見かけの寿命への影響を、実際の養蜂場から得られる測定可能な成蜂数と封蓋蜂児数だけで推測できる。

【農薬に暴露された蜂群の見かけの寿命】未発表のため内容非公開

石川県志賀町での実験データ(成蜂数、封蓋蜂児数)を用いて、我々が提案した数学モデルにより、見かけの寿命を推定した。砂糖水を介して農薬を摂取した蜂群の見かけの寿命は、無農薬の蜂群とほぼ同じ季節変化を示すが、花粉を介して農薬(DF)を摂取した蜂群の見かけの寿命は、無農薬群や農薬入り砂糖水摂取群とは全く異なる季節変化を示す。この原因を推定している。

[6] Yasuhiro Yamada, Toshiro Yamada, Kazuko Yamada: Scientific Reports, 9(1):4102 (2019).
https://www.nature.com/articles/s41598-019-40725-0?bcmt=1

「ネオニコ問題は決して解決していない」⑥へ続く

yamada_toshiro

山田 敏郎(金沢大学名誉教授・学術博士)

金沢大学大学院工学研究科修士課程修了。 東洋紡績㈱犬山工場勤務を経て1988年より同社総合研究所主席研究員。2014年よりプラスチック成形加工学会に論文編集委員として所属。現在、金沢大学名誉教授・学術博士。専門は化学工学、養蜂。

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