ファッションの新しい潮流「エシカル・ファッション」 ――H&Mはサステナブル

オーガニック・コットンなど環境負荷の低い素材の使用、フェアトレードなど児童労働の撤廃や人権に配慮した生産・流通過程を目指す「エシカル(倫理的)・ファッション」に注目が集まっている。エシカルとは距離があるように思われているH&Mや、ヴィトン、ボッテガなどの有名ブランドも今、一斉に動き出している。(最新号特集記事から抜粋)

「パリコレでの成功は『たき火』みたいなもの。手のひらで灰になってすぐに消えてしまいます。しかし、エシカル・ファッションを追求するということは、とてつもない達成感と満足感を得られるのです」。

そう語るのは、世界的ファッション・デザイナーのキャサリン・ハムネット氏だ。1980年代から環境・社会問題を訴えるメッセージTシャツを多数発表してきた。89年からファッション業界の環境への影響などを詳しくリサーチしていくなかで、化学薬品による中毒死や病気が耐えない農家の現状や縫製工場の厳しい労働条件を認識し、ファッション界を改善しようと取り組み始める。06年には、環境に配慮した素材を使用した新ブランド「キャサリン イー ハムネット」を発表した。

「ピープル・ツリー ラブ ・フロム・エマ」コレクションを着る英女優エマ・ワトソン氏。バングラデシュにあるピープルツリーの工場も訪ねた(C) Andrea Carter-Bowman/People Tree

■エマ・ワトソンもフェアトレードを支援

適正な賃金を保障し、公平な価格で取引をするフェアトレード。「考え方は素晴らしいが、デザインがおしゃれではない」という見方から、なかなかファッションの領域まで広がらなかった。こうした固定観念を変えた旗手として挙げられるのが、フェアトレードカンパニー(東京・世田谷)が運営するフェアトレード専門ブランドのピープル・ツリーだ。

映画「ハリー・ポッター」のハーマイオニー役で知られる英女優エマ・ワトソン氏とのコラボ「ピープル・ツリー ラブ ・フロム・エマ」を2010年に発表し、話題を集めている。また、ロンドンでは、若手デザイナーのボラ・アクス、カレン・ニコル、日本では三原康裕、津森千里ら著名なデザイナーとのコラボも積極的に展開している。

■H&Mはサステナブル

最新の流行を採り入れながら低価格に抑えた衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産・販売するファストファッション。H&Mは、日本ではファストファッションブランドとして認識されている。だが、環境先進国・スウェーデン生まれのH&Mは、成長と高収益性の維持には、社会と環境の両面でサステナブル(持続可能)な方法で事業を運営することを重要だとしている。

まず、同社は何よりも衣料の廃棄物を減らすことを意識している。取り扱っている商品は、Tシャツやタンクトップ、デニムといったベーシックアイテムが大部分を占め、流行を意識したファッション性の高いものは、少量生産にして店頭で売り切るようにしている。どうしても残ってしまった衣類は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)や赤十字らに寄付する。

素材にもこだわり、オーガニック・コットン以外のほか、オーガニックウールや魚網と繊維くずを原料とするリサイクルナイロンなど、サステナブルな素材9種類を展開している。同社は、2020年までに全ての素材をサステナブルな素材にする方針を打ち出した。

H&Mの100%オーガニックコットンのワンピース。ジャケットには、オーガニックコットンが55%、オーガニックリネンが45%使用されている(C)H&M

■ ヴィトンもボッテガも

エシカル・ファッションとは距離のある存在としてとらえられてきたラグジュアリー・ブランド。だが、最近ではエコロジーや社会貢献は当然、という考えが広まってきているという。

先陣を切って全社を挙げて環境問題に取り組み始めたのは、ルイ・ヴィトン。05年には、CO2削減のため、輸送の半分を空輸から船便に切り替えた。09年には、長野県小諸市に「ルイ・ヴィトンの森」を開設した。ボッテガ・ヴェネタは、就労環境評価の国際規格「SA8000」を09年春に取得している。このほか、グッチ、クロエやブルガリなども、環境への負荷を減らすことを意識したり、ブランド力を生かした社会貢献活動に取り組んだりしている。

伊藤忠ファッションシステム・マーケティングマネジャーの川島蓉子氏は、「エシカル・ファッションとはどのようなもので、どうすれば自分も楽しめるかということについての情報が増えれば、もっと広がる潜在力はある」と、消費者の動向を分析している。(オルタナ編集部 吉田広子)

*さらにエシカル・ファッションについて知りたい方はオルタナ22号をご覧ください

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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