世界で180万人の信徒を擁する巨大宗教団体「生長の家」は、環境貢献を活動の柱にする。環境規格ISO14001の認証を2001年に宗教団体として世界で初めて取得するなど、先駆的な取り組みを進める。なぜ宗教が環境に熱意を向けるのか。
「省エネ、ゴミ分別の徹底」「職員は出張時のCO2排出量を算出して交通費を請求」など。生長の家本部(東京・原宿)は、約200人が働く一見普通のオフィスだが、細やかなエコの工夫が随所にある。「環境配慮の実践が、宗教活動の一部です」と山岡睦治出版・広報部長は説明する。
こうした配慮はISOへの対応のためだ。同規格は環境負荷を洗い出し、PDCA(計画→実行→点検→改善)を実施する。その透明性、客観性が実践に結びつくと考えた。本部でこれを取得した後で07年までに全国66の事業所、ブラジルの拠点まで広げた。
取り組みの結果、事業所のCO2排出量は09年に35%減(02年比)となった。また07年から主要事業所では排出権の購入等でカーボンオフセットを実現。12年度までに東京から山梨県北杜市の森に教団本部を移転し「自然に学ぶ」活動を本格化させる。
毎月発行の機関紙には会員が設置した太陽光発電の総量が掲載される。10年12月時点で約800家族が参加し約4800キロワット(kW)に達した。メガワット級の能力を持つ太陽光発電設備は日本でまれで、とても大きな数字だ。09年からパネル1kW当たり5万円の購入支援を提供したことで普及が加速した。電気自動車(EV)でも1台30万円の支援をしたところ、1人が購入。会員には環境家計簿、さらに環境負荷の大きい肉食を減らすことを呼びかける。
ただし強制はなく、活動には明るさがある。生長の家は「ポスティングジョイ」という独自のSNSサイトを運営する。会員に限定せずに「日常のうれしいこと」を書き込む場だが、「野菜食の仕方」とか「どんぐりの木を植えました!」など、エコをめぐる心の温まる声があふれる。新聞記者の経歴がある谷口雅宣・生長の家総裁が講演、著述に加えてブログで環境への情報を自ら発信する。ネット活動の重視もエネルギーを減らす意味がある。
「天地一切のものに感謝せよ」。生長の家は1930年の立教からこの教えを説いてきた。深刻化する環境問題を前に、教義の現代的意味と今できることを考えた。2000年に環境方針を決め、宗教団体で先駆的な取り組みを重ねた。
山岡部長は今、他宗教と社会との環境活動での協力に期待する。「宗教は内向きになりがちです。『自然に感謝する』という諸宗教に共通する教えを土台として協力をすれば、互いの活動を尊重しながら、外の世界を変える大きな連帯を生み出せると思います」。
心に働きかける宗教が動けば、人の欲望を一因に生まれた環境破壊が止められるかもしれない。生長の家の活動からそんな希望が抱ける。(オルタナ編集部=石井孝明)2010年12月16日