あなたのケータイ、「紛争鉱物」ではありませんか

「紛争鉱物」という概念をご存知だろうか。生態系の破壊や児童労働による採掘の恐れがある鉱物、特にレアメタルを指し、アフリカのコンゴ共和国周辺のタンタルなどが最近、よく話題になっている。携帯電話の部品から紛争鉱物を無くす「エシカルケータイ」運動を展開している、国際青年環境NGO・A SEED JAPAN(ア・シード・ジャパン、東京・新宿)理事の加治知恵さんに報告してもらった。

コンゴ民主共和国で犠牲になったゴリラたちの骨 (C)Kanta Hani

■鉱物採掘現場でゴリラを食料に

野菜や魚の原産地表示やFSC(森林管理協議会)認証など、私たちがモノを買う時、その流通経路や履歴を考える機会が増えている。しかし、とても身近にありながら、流通経路がほとんど意識されないものもある。

携帯電話など身近な電子機器に入っている「金属」もその一つだ。しかし、その金属こそ、鉱物採掘の現場で大きな環境・社会問題を引き起こしている可能性がある。

携帯電話のコンデンサに使われる「タンタル」。主要産地の一つ、コンゴ民主共和国は1998年から続く内戦が今も収まらず、政治は不安定である。そんな中、国立公園の中にまでタンタルの違法採掘者が入り込み、その際の貴重なタンパク源として、ゴリラを殺して食料にするという事態が起きているのだ。

ゴリラの被害だけでなく、「タンタルが武装勢力の資金源になっている」「児童労働や強制労働による採掘が行われている」という疑いもある。ほかにも「大面積の掘削によって大量の鉱山廃棄物を出し、それが河川や土壌の汚染を引き起こす」「採掘先住民や居住者の土地を強制的に奪う」などの問題が指摘されている。

■米の金融規制改革法が引き金に

コンゴの金鉱山で何千人もの子どもたちが働いている。彼らの多くは孤児や元子ども兵士だ (C)AI/IPIS

このような中、米国で今年の7月に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の中に、紛争鉱物に関する条項が入れられた。タンタルなどの「紛争鉱物」を規定し、それがコンゴ民主共和国あるいは隣接国由来であるかどうか、さらに、上記に該当する場合、紛争に寄与していないことをSEC(米証券取引委員会)に報告しなくてはならない。

これが既に法律として成立していることは、米国でビジネスを行う企業にとって大きな衝撃である。紛争鉱物について、SECに報告が必要な時代になったのである。

■日本企業の取り組みはまだこれから

A SEED JAPANでは、2010年6月に、「メーカーの責任ある鉱物・金属調達に関する公開質問」を実施したが、送付した携帯電話メーカー、電子電機系工業会会員企業、自動車メーカーの計70社のうち、回答があったのは17社であった。

また、調達している鉱物・金属について、供給先に原産国・供給鉱山などの情報を求めている」という企業は6社である。タンタルについては取り組んでいるという企業もいくつかあったが、全体的には、やはり採掘という最上流まで遡るのは難しく、取り組みはこれからという企業が多かった。

■エシカルな製品を求める市民の声

冒頭に述べたように、そもそも鉱物採掘の際の環境・社会問題について日本では意識が薄いという面があるが、メーカー等の企業が取り組みを進めるためにも、市民・消費者の声が重要である。

A SEED JAPANでは、国際環境NGO・FoE Japan(東京・豊島)、アムネスティ・インターナショナル日本(東京・千代田)などとともに、環境・社会配慮して採掘された鉱物を使った「エシカル」(倫理的)な製品を求める「エシカルケータイキャンペーン」を7月に開始した。

このキャンペーンでは、採掘が引き起こす問題を伝えるとともに、エシカルな製品を求める市民の声を集めており、約5カ月弱で500名以上の方の賛同をいただいた。

世界中から鉱物を輸入している日本において、最上流の採掘現場まで環境・社会配慮することは、今後ますます求められるだろう。

「メーカーの責任ある鉱物・金属調達」に関する公開質問状2010」

エシカルケータイキャンペーン ~ヒトもゴリラも傷つけないケータイをつくろう!~

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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