日本の林業は、安価な輸入木材に市場を奪われ、衰退の一途をたどってきた。しかし、劣勢のなかでも、里山の荒廃を防ぎ、持続可能な地域産業へと転換させる動きが各地で始まった。活性化に向けての共通のキーワードは、「デザイン」だ。
■ スギのよさを生かし、家具からまちづくりまで
「日本全国スギダラケ倶楽部」は、その名の通りスギの有効利用を訴える団体だ。スギ生産量日本一を誇る宮崎県の景観デザインを南雲勝志氏が手がけたのがきっかけで結成された。
地場産のスギ利用や県外への販売という産地の望みとは裏腹に、補助金で間伐材を伐採しても活用法がなく、値崩れする悪循環が当初はあったという。
そこで南雲氏は、利用拡大のため家具への利用を提案。タモやブナに比べ、20から30分の1の価格で、加工も簡単という特徴に目をつけたのだ。無垢材にステンレスの足をつけたベンチ「杉太」が誕生した。
「杉太」に感銘を受けた内田洋行の若杉浩一・千代田健一氏らは、「スギダラファニチャー」の商品化を目指すと共に、オフィスの内装材としてスギのよさを広めた。
宮崎県日向市や日南市は、同倶楽部と共同でスギを用いた駅舎や広場をつくり、地元メーカーによる家具製作も推進中。素材を再評価するモノづくりから、まちづくりへと展開している。
■ 製材所の魅力を残し、観光・モノづくりの拠点へ
ランドスケープデザイナーの山崎亮氏は、森林豊かな伊賀市島ヶ原地区で、オーナーが高齢化のため廃業する製材所を公園にする依頼を受けた。
しかし、現地で木材加工の面白さを目にした山崎氏は、製材所を残し、木工ワークショップの場とすることを提案。関西・中部など大都市圏の市民にとって、約2時間でアクセスでき、森林や木工に親しめる場の魅力を見いだしたのだ。「よそものにしか見えない地域の資源だった」と氏は語る。
オーナーの穂積亨氏の名に由来して「ホヅプロ」と命名。2007年のスタート以来、関西圏の建築家や学生など延べ1300人余りが、ワークショップで家具や宿泊施設づくりを進めている。
今後は、観光拠点であると共に、伝統木工技術の継承とデザイナーの育成も目指すという。
■美術館も森林保全活動へ
長野県軽井沢町の脇田美術館は、地域の森林の更新・循環を目指し、県産カラマツを使った「木のデザイン」を公募中。明治以降、佐久地域で大規模造林され、県内人工林の約55%を占める同材の利用法、木の文化や新しいライフスタイルの提案を求める。入選作は今秋開催される公募展で公開する。
格好よさだけでなく、モノのあり方の原点に立ち返り、価値を再定義することがデザインの本質的な役割だ。それが、既存産業の改革、今日的な流通や生産システム、ライフスタイルやコミュニティを生み出す原動力となる。(オルタナ編集部=有岡三恵)2011年1月19日