
高度成長期に建設された団地が老朽化し、建て替え時期を迎えている。それらを取り壊すのか、再生・活用するのか。新旧含め全国に77万の賃貸住戸を保有する都市再生機構(UR)は「ルネッサンス計画1」として、古い住棟を再生させる実験を東京のひばりが丘団地と大阪の向ヶ丘第一団地(2月末まで公開中)で行った。
■既存建物利用でCO2排出抑制
日本住宅公団(現UR)は、1955年の設立から年間約2万戸、1965年以降は徐々に増加し1971年度には約6万戸の賃貸住戸を建設した。基本的な間取りと住棟を規格化した「標準設計」とすることで大量の住戸供給を可能とし、ひばりが丘などのマンモス団地が誕生したのだ。
再生実験の対象となった住棟は、共に1960年頃に建設された中層階段室型と呼ばれる形式で、同タイプが全国で約25万戸あるという。主な改修のポイントは構造体補強、給排水など設備の更新、バリアフリー化、断熱性能の向上などだ。
ひばりが丘では竹中工務店が、向ヶ丘第一団地では戸田建設グループが共同研究者として加わり、施工実験や各種検証など、住棟単位での改修技術の開発が行われた。

耐震性能向上のため4階建ての最上階の減築、エレベーター設置や廊下の増築、手狭な約35平方メートルの住戸を複数戸合体させて一住戸にするため戸境壁や床に開口を設けるなど、技術と共に改修ならではのユニークな住戸プランも生まれた。
「新築でつくった方が工事は容易だが、既存のストックを活用することの重要性も感じている」と設計担当の酒向昇氏(竹中工務店)はいう。
建設から解体までに建物が排出するCO2の約13%は資材・建設・解体で生じる(住宅生産団体連合会調べ)。また、建築資材の生産で排出するCO2は日本の排出量の13%に上るという研究報告もある。既存住棟の活用は温暖化ガス排出抑制の観点からも重要だ。
■多様なニーズに応じる試みも
建設当時、公団住宅は庶民の憧れであり、文字通りnLDKの間取りは核家族の生活に適していた。しかし、今は単身者や高齢者が増え、シェアハウスなど住まい手のニーズは画一的ではない。本実験でも、菜園付き住宅、在宅ワーク型、縁側コミュニティ住宅などさまざまな住まい方を提案している。
個々のニーズに応じた空間があれば、個性ある人間が集うきっかけとなるだろう。古きよき昭和の団地とはまた違う、新しい団地風景が現れることに期待したい。
URは、2018年度までの賃貸住宅再生・再編の方針を策定し、個別団地毎の整備を行う。「ルネッサンス計画2」として、民間事業者が住棟を改修、活用する事業も進行中だ。(オルタナ編集部=有岡三恵)2011年2月10日