東京電力は東日本大震災によって生じた福島第1原発の事故で巨額の賠償負担を背負う見込みだ。枝野幸男官房長官は3月21日の会見で、損害賠償について「まずは一義的には原子力災害に起因するものであるので、当然、東京電力が責任を持っていただく」と明言した。同日行われた農作物の出荷停止措置の責任についての質問に答えた。
「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」では、「原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」と明記している。枝野官房長官の発言は、この法律を確認したものだ。同法では「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるとき」の事故は例外を認めているが、この発言で政府は財政支出による補償に慎重な姿勢を示した。
政府は21日、規制値を超える放射性物質が検出された農産物について、福島、茨城、栃木、群馬の4県に対して、県単位で出荷停止を指示した。対象はホウレンソウ、かき菜と、福島県産の原乳(しぼりたての牛の乳)で、期間は「当分の間」としている。
茨城県は2008年の農業生産額で全国2位の4284億円。福島も2505億円、栃木2693億円、群馬2244億円で、農業は各県とも経済の重要な位置を占める。また損害は農作物だけではない。避難と屋内退避指示が出た住民約22万人のほか、漁業や経済活動全般に損害が生じ、その影響は数年にわたって続くものと見込まれる。
原賠法では東電と国の費用分担は明確ではない。1999年に起きた茨城県東海村の臨界事故では、事業者のJCOが賠償を引き受け、金額は150億円に上った。東電の藤本孝副社長は21日の記者会見で「誠にご迷惑をおかけしている。国と相談をしながら誠実な対応をしていきたい」と補償への姿勢を述べたが、その金額は現時点では算定できないほどの大きなものになりそうだ。
BBT大学院大学学長で、原子力工学の博士号を持つ大前研一氏はユーチューブ上の公開講義(13日)で、「原子力は発電でもプラント製造でも、ビジネスとして成り立たなくなる。一企業が背負うにしてはリスクが大きすぎる。日本では今後、原子力発電の国営化も検討することになるのではないか」との見通しを示した。
「安い電気を作れる」。政府、電力会社は原発の優位性を繰り返してきた。巨額の賠償は自らが語った幻想を打ち砕くものになる。(オルタナ編集部=石井孝明)2011年3月23日